「 離党後、真価が問われる長島氏 」
『週刊新潮』 2017年5月18日号
日本ルネッサンス 第753回
「言論テレビ」で衆議院議員の長島昭久氏が語った。これまで幾度か、離党の意向を示して揺れた氏が本当に民進党を離党した。決断は如何にしてなされたか。
「蓮舫氏が代表選挙に出た昨年9月、私は共産党との関係を白紙に戻すことなどを要請しました。しかし、蓮舫氏は何もしませんでした」
民進党は「次の選挙」や「国会の次の質問」など、眼前の課題や、蓮舫氏の二重国籍問題にとらわれ、長期戦略を考えられないと指摘する。
「日米安保、自衛隊、皇室、私有財産、エネルギー、テロ等準備罪。共産党と折り合えない事案を全部曖昧にして選挙協力する。政権を共に担うことはしないから、受け入れてほしいというのは通用しない。有権者に対して不誠実です。これが私の最終決断の理由です」
「2009年に政権をとるまでは、当時の民主党は現実的でした。政権を担うため政策を練り、賛否を決めた。03年の有事法制は与党と折り合って賛成した。しかし、2年前の安保法制は完全に政局にしてしまった。テロ等準備罪も反対、TPPも消費税も自分たちが提案したのに反対。全て、何でも反対になっていった」
そう語る長島氏自身、安保法制に反対した。政治家としての信条を曲げたと批判されても仕方がない行動だったのは事実だ。氏は語る。
「僕らは以前は、共産党を外して自民党と競った。いまは共産党に引っ張られて、かつてのような現実を見詰めた議論はなくなっています。安倍首相が右なら、民進党は左というふうに、反安倍を旗印にした全員集合体制で、議論は不毛な二極分化に突き進んでいます」
共産党との選挙協力について、党内議論は殆んどないとも氏は語る。
「選挙を有利に戦いたいという思いばかりが先行しています。私の選挙区(東京21区)では前回、共産党候補者が3万5000票とりました。共産党候補が不出馬なら、その票は恐らく民進党により多く流れるだろうという期待、これだけなんです」
「そのようなまとまり方で、もう一度政権交代だ、2大政党制を実現すると考えるのが民進党現執行部でしょう。完全な空回りです。私は2大政党制はすでに幻想だと思います」
共産主義化を目的
では長島氏はこれからどのような政治活動を目指すのか。
「日本は、ドイツのような複数政党による連立政権に向かうのがよいと考えます。自分は、保守の枠組みの中で現実直視の政策を推進する力になりたい」
月刊誌『正論』6月号に、氏は「真の保守を標榜する立場から言論空間における左右と国会における与野党の主張を包摂し」「中庸の思想」を実践したい旨、書いている。
長年の交流がある氏だけに、非常に違和感を覚えると言わなければならないのが残念だ。右と左を「足して2で割る」という単純な話ではないと、氏は断っているが、世界情勢が大変革を遂げる中で、いま、日本が行うべきことは、中庸ではないだろう。「真の保守」という言葉にどんな意味を込めているのか、改めて、政治家としての氏の覚悟を聞きたいと感ずる次第である。
それにしても、迷走を続ける民進党を去るという意味で、氏に続く政治家はいないのか。鷲尾英一郎、吉良州司、北神圭朗各氏らの顔が浮かぶ。民進党の現状に不満を持つ原口一博、前原誠司、細野豪志各氏らはどうか。
彼らが民進党に、いまより危機感を強め離党に傾く時は意外と早いかもしれないと、実は私は考える。理由は明白だ。民進党が共産党に接近すればする程、民進党は変質し、食われてしまうからだ。
党員30万人、党支部2万、地方議員2800人超という基盤をもつ共産党に比べて、民進党の組織は脆弱極まる。一旦協力すれば飲み込まれるのは確実だ。飲み込む共産党は『日本共産党研究』(産経新聞政治部著、産経新聞出版)で指摘されたように、「普通の野党ではない」。彼らは、1922年、旧ソ連のモスクワに本部を置くコミンテルン(共産主義インターナショナル)の日本支部として誕生した。全世界の共産主義化を目的とするコミンテルンの「日本支部」である。
他の政党とは異質な共産党の本質を、『共産主義の誤謬』(中央公論新社)で、福冨健一氏が非常にわかり易く描いている。氏はまず、世界の先進国でいまも共産党が躍進しているのは日本だけであり、日本共産党の綱領は「コミンテルンで承認された内容」だと警告する。他党、たとえば自民党が自民党の政治家と党員の意見を反映させて党綱領を決定するのとは異なるのだ。
危険な安全保障政策
日本共産党はどのような国の形を目指しているのか。5月3日、BSフジの「プライムニュース」で小池晃共産党書記局長は「天皇のいない日本国は想像できない」という趣旨の発言をした。一方、共産党の04年綱領には、「一人の個人が世襲で『国民統合』の象徴となるという現制度は、民主主義および人間の平等の原則と両立するものではなく、天皇の制度は憲法上の制度であり、その存廃は、将来、情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべき」だと書かれている。
不破哲三氏は『日本共産党綱領を読む』(新日本出版社)で「民主主義の徹底のためには天皇制はない方がいい」と明記し、志位和夫委員長は12年1月10日、共産党本部の「綱領教室」で「日本の将来の発展の方向としては、天皇の制度のない、民主共和制を目標とする」と語った。
小池氏の発言とは裏腹に、共産党が党として、皇室廃止を確たる目的として掲げているのは明らかだ。
次に自衛隊についての共産党の方針である。福冨氏はそれを、➀日米安保条約の廃棄、アメリカ軍とその軍事基地の撤退、➁いかなる軍事同盟にも不参加、➂憲法第9条の完全実施(自衛隊の解消)に向かって前進、とまとめた。
これでは日本は全く無防備になってしまう。こんな危険な安全保障政策を採用するのは、コミンテルンの日本支部として誕生した日本共産党の闘う相手は、外国でなく日本だからなのだという説明が、共産党の本質を抉り出しているのではないか。
立花隆氏も『日本共産党の研究(二)』(講談社文庫)で、共産党は「日ソ戦が起きたら、日本が敗北しソ連が勝つように全力をつくし、そのためには赤軍に協力し、国内で赤軍の攻勢に呼応して内乱を起こし、その内乱の成功のためには赤軍の協力を求める」と書いた。
ソフトなイメージ戦略の背後に、コミンテルン由来の綱領がある。民進党はこのような共産党と共同歩調をとるのか。そのことに抗して除名された長島氏は、政治生命を賭けて激しく闘い続けるしかないだろう。