「 日本人が知っておくべき国際情勢を読み取る“ツボ” 」
『週刊ダイヤモンド』 2008年3月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 729
1979年のイラン革命のとき、世界は、イランが米ソいずれの陣営に入るのか、固唾をのんで見守った。国際社会では、米国に近かったパーレビ国王を倒したホメイニ師はソ連陣営に入るとの見方が有力だった。
だが、米国務省きってのアラブ通の人物は、イランは決してソ連の手には落ちないと断言した。なぜなら「ロシア人はけちだから」だ。
国際情勢の深い洞察者である廣淵升彦氏の新著『頭にちょっと風穴を―洗練された日本人になるために』(新潮社)のこのくだりを読みながら、私は笑いを抑えることができなかった。
そして思い出していた。89年11月9日にベルリンの壁が崩れ、その直後に訪れた東ドイツでのことを。冷戦下、東西に分かれて対立を続けていたドイツ。とりわけ冷戦の最前線となったベルリンでは、東西双方が背後にソ連と米国を掲げ、青白い炎のような緊張と対立のなかにあった。彼らは、互いに、自らの優位性を誇示するために、街並みを整え、できる限りの繁栄を装ってもいた。
私は、崩れたばかりの壁を、西側から東側へと入った。その途端に空気のにおいの違いに驚いた。東ベルリンの空気は汚れて、排出ガスの不快なにおいがした。街の色彩は暗く沈んでいた。商店のウインドーの飾りも寂しげだった。人びとの表情には、不安と警戒とが入り交じっていた。
冷戦時代に訪れたルーマニアも同様だった。そして、ロシア共和国になる以前のソ連も同じだった。
私はそれは社会主義のせいだと考えていた。言論の自由も居住の自由も、移動の自由さえない監視社会のせいだと。しかし、それだけではなかった。人びとは本当に貧しかったのだ。そしてその貧しさは、単に社会主義統制経済の効率の悪さゆえのものではなく、為政者の「けち」がもう一つの大きな理由だったのだ。
ソ連共産党の幹部は、階級があってはならない社会に、厳しい階級制度をつくり出した。自分たちだけが信じがたいほどの富を持ち、豊かに暮らしていた。しかし、自分たち以外の者に対しては「本当にけち」だった。だから、国民も、衛星国と呼ばれたソ連圏諸国も、不幸せで極端に不満足で、将来、チャンスさえあれば二度とソ連と一緒になりたくないと考えたのだ。
ホメイニ師らも同様に感じていたはずだ。だからイランはソ連体制下に入ることがなかった。
なんとスッキリ物事が見えてくることか。なんとわかりやすいことか。この類いの知識を、廣淵氏は国際情勢を読み取る“ツボ”だと言う。ツボとは何か。氏はそれを、巧みな漫画家が描く数本の線にたとえる。人物の特徴を描くのに多くの線は要らない、肝心の数本があれば十分だ。その線に相当する知識がツボだというのだ。
ツボさえ押さえておけば、たとえ細かな国際情報に欠けていても、読みスジを大きく間違えることはないと氏は強調する。そして、国際社会のなかで、そのツボにほとんど無関心で、むしろ、無知に近いのが、日本人だと嘆息する。
その日本人に向かって廣淵氏は語る。「日本がいまや直面している困難の多くは、『教養があれば解決できる類いのもの』である」「それも『国際的な教養』があればなおいい」と。
『頭にちょっと風穴を』は、日本人が知っておくべきだけれど、これまでの報道では、ほとんど触れられたことのなかった情報に溢れている。それは国際的教養と呼ぶべき、おとなの知識であり、洗練されたユーモアである。
世界を見誤らないためのツボさえ押さえておけば、どれほどの理解力と状況への対処力を身につけることができるか。氏は多くの実例を交えて語り、内外共に山積する日本の課題を教養の力をもって乗り越えよと勇気づける。ぜひ一読を薦めたい書である。
ロシヤ人がケチなら、あの国は?…
桜井よしこさんの所からのTBです:
http://yoshiko-sakurai.jp/index.php/archives/679
簡潔にして実に正鵠を穿って (more…)
トラックバック by 憲坊法師の徒然草 — 2008年03月04日 07:51
いわゆる「人権擁護法案」再提出に対する要請受付国民集会…
人権擁護法案に関する国民集会が下記の要項にて開催されます。
地方議員からもアピールさせていただくこととなりました。議会中とは存じま
トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2008年03月06日 15:37
いわゆる「人権擁護法案」再提出に対する要請受付国民集会…
人権擁護法案に関する国民集会が下記の要項にて開催されます。
地方議員からもアピールさせていただくこととなりました。議会中とは存じま
トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2008年03月06日 15:37
国際情勢を読み取る…
世界を見誤らないためのツボさえ押さえておけば、 どれほどの理解力と状況への対処力を身につけることができるか。 氏は多くの実例を交えて語り、内外共に山積する日本の課題を (more…)
トラックバック by オヤジのつぶやき — 2008年03月09日 12:03