「 トランプ氏の台湾政策に中国が反発 求められる現実政治の注意深き戦略 」
『週刊ダイヤモンド』 2016年12月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1162
次期米国大統領、ドナルド・トランプ氏は大統領に当選して以来、中央情報局(CIA)をはじめとする米国の16に上る主要情報機関のブリーフィングをほとんど受けていない。
通常、次期大統領は当選から実際にホワイトハウス入りするまでの2カ月余りの間、熱心にこれら情報機関の進講を受け、大国米国の指導者に、また、世界のリーダーに必要とされる知識を身に付けていく。次期副大統領のマイク・ペンス氏は当選以来、毎日熱心にブリーフィングを受けている。だが、トランプ氏はこれまでに2回、進講に応じただけだ。
ビジネスには優れていても、外交・安全保障に関する知識や理解は心もとないといわれるトランプ氏に対しては、いったん大統領に当選すればいわゆる専門家が「正しい」情報を助言するので、暴言は軌道修正できるし、懸念することはないといわれてきた。しかし、そうした期待が裏切られている。
その間にもトランプ氏は、50を超える国・地域の首脳との会談を行っている。12月2日には台湾の蔡英文総統にも電話した。氏は蔡総統を「プレジデント」と呼び、一国の指導者と位置付ける姿勢で敬意を払った。
11月14日には中国の習近平国家主席と会談しており、その後とはいえ、台湾総統に次期米国大統領が電話をかけるのは異例で、台湾を国家扱いすることは中国が最も忌み嫌うことだ。
中国側の不快感の表明に対してトランプ氏はツイッターで反発した。
「中国は元安にして(米企業の競争力を削いで)よいかと、われわれに聞いたか? (米国は中国貿易に関税をかけていないのに)米国の製品に高い関税をかけてよいかと、われわれに聞いたか? 南シナ海のど真ん中に巨大な軍事施設を建ててよいかと、われわれに聞いたか? そうは思わない!」
「ニューヨーク・タイムズ」紙はツイートの背後にあるのは、大国の指導者が蔡総統と会談するのに中国に了承してもらわなければならないという状況への「腹立ち」だと、解説した。
トランプ氏のツイートに対して、中国は態度を硬くし、共産党機関紙「人民日報」が社説でこう書いた。
「中米関係で問題を起こすことは、アメリカ自身に問題を起こすことだ」
人民日報の国際版で、世界の反応を見るために様子見の役割を果たす「環球時報」も社説で書いた。
「(台湾問題で米国が中国に圧力をかけることは)アメリカを再び偉大な国にするという目的実現の可能性を大幅に減殺することになるだろう」
中国は反撃するとの姿勢が見える。
トランプ氏はどこまで深く考えて、台湾政策の一歩を踏み出したのだろうか。外交専門雑誌「フォーリンポリシー」にアレックス・グレイ氏とピーター・ナバロ氏が書いている。グレイ氏は政権移行チームの一員、ナバロ氏はトランプ氏のアドバイザーである。
グレイ氏はオバマ政権の台湾政策を「目に余るひどさだ」と厳しく批判し、ざっと以下のように書いた。──台湾はアジアのデモクラシーの灯であり、世界で軍事的に最も脆弱な米国のパートナーである。虎視眈々と台湾を狙う中国を抑止するために、この島に対する包括的な武器装備の売却(deal)が必要だ。
同様の意見は、トランプ氏周辺には少なくない。トランプ氏のツイートが中国の態度を硬化させたことについても、それは西太平洋・インド洋にまたがる国々に、米国の新政権は過去の取り決めに制約されないということを示す好材料だとみる専門家もいる。
中国の覇権主義や圧力に屈しないとの米国の姿勢は大歓迎だ。しかし現実の政治の中でその政策を全うするには、注意深い戦略が必要だ。それなしには、かえって事態は悪化する。私には、そのことが心配だ。