「 首脳レベルでは良好になった日韓関係 それでも残る協力関係実現への不安 」
『週刊ダイヤモンド』 2016年9月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1149
中国浙江省杭州からラオスの首都ビエンチャンへ、安倍晋三首相はこの1週間で韓国の朴槿恵大統領と2回、会談した。
ビエンチャンでは両首脳のみならず、双方の代表団はかつてない親密な雰囲気に包まれていたと報道された。
主要20カ国(G20)首脳会議のさなかに北朝鮮が日本の排他的経済水域に3発のミサイルを撃ち込むという、両国にとって極めて深刻な危機を眼前にして、両首脳が緊密な関係を世界に示したのは当然である。
両首脳の確認事項は大別して3点だ。まず、安倍首相が慰安婦問題で日本側の10億円拠出に触れ、ソウルの日本大使館前の慰安婦像(の撤去)に向けた努力を要請したのに対し、朴大統領は「未来志向」での協力を述べた。
第2点は両国が危機感を共有し、日米韓の協力を確認し合った北朝鮮問題であり、第3点が南シナ海問題だ。安倍首相が仲裁裁判所の裁定を含む国際法に基づく解決を目指すと明言したのに対し、朴大統領も裁定を支持する形で合意し、親中姿勢を修正した。
首脳レベルではかつてないほど良好な関係が築かれているが、問題は、国家間の取り決めを実現できるかどうかである。その意味で朴大統領の足元を見れば懸念材料は尽きない。
韓国の反朴勢力が全力で推進する反日歴史戦が熾烈さを増している。彼らは昨年12月の日韓合意をほごにするために、ひどい映画を製作したと、拓殖大学教授の呉善花氏が語る。
「『鬼郷』という映画で、慰安婦問題がテーマです。13歳の女児を日本軍が無理やり連れ去る。連行先には同じように12歳、13歳の女児が多数閉じ込められていて、皆、毎日多くの日本兵の相手をさせられるという体験を生々しく描写しているのです」
呉氏が説明した映画の筋書きでは、少女たちはひどい環境の下で次々と病気になり、命を落とす。日本軍は少女たちの遺体を穴を掘って放り投げ、石油をかけて焼き、埋めてしまう。
ばかばかしいまでに史実と懸け離れたこの映画が、なんと大ヒットしているのだという。呉氏がさらに語った。
「ソウル市長の朴元淳氏は、この映画こそ、小学生からお年寄りまで必見だと言って、老人ホームなどからバスでお年寄りを映画館に連れていっているのです。映画館が足りなくて、公共のホールまで使用しています」
日韓併合時の歴史、日本による統治の実態について少しでもまともに学んでいれば、「鬼郷」に描かれたような事実はあり得ないと分かるはずだ。しかし、韓国ではまともな歴史教育は全くなされず、歪曲した歴史が教えられてきた。その結果はネットに正直に表れており、「初めて真実を知った」という類いの感想が溢れているという。
「映画を製作した反日団体は、日本は強制連行の証拠はないと言い張るが、われわれがその証拠を見せてやると言って製作したのです」と、呉氏。
両国にとってこれ以上の不幸はないが、これが韓国の反日教育の結果であることに朴大統領は気付いている。彼女は教科書を改訂する構えだが、このことへの反発は非常に強い。
一方、韓国の反日団体は米国、カナダ、オーストラリアに続いてドイツにも慰安婦像を設置すると発表した。日韓合意を正面から否定する市民運動はとどまらない。韓国人の対日歴史認識が朴大統領の前に立ちふさがり、より良い日韓関係が築きにくくなっている。朴大統領の指導力を陰らせるだけでなく、韓国の国家戦略─日米韓の協力を強めて北朝鮮や中国の脅威に対処する─にも負の影響を与えている。
国民が国家を構成する限り、賢い国民を育てることが最重要事項だ。歴史教育も含めて韓国はいま、反日教育のツケを払う局面にあるが、わが国も日本否定の教育を長年続けてきたことを忘れたくない。