「 財務省の教員削減は本質知らず 解決策は民間の力の活用にあり 」
『週刊ダイヤモンド』 2015年6月6日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1086
5月26日、安倍晋三首相の開催する教育再生実行会議と、下村博文文部科学大臣の諮問に応える中央教育審議会の意見交換会が行われた。私は中教審の委員の1人として出席したのだが、交換会では近未来社会に生ずる大きな変化に対応する教育の在り方に注目が集まった。
下村文科相が、3つの未来予測を示した。(1)今年小学1年生の児童が大学を卒業するとき、65%の児童がいま存在しない職業に就く、(2)今後10年ほどで47%の仕事が自動化される。この中には頭脳労働も含まれ人間の知的労働がコンピュータによって代替される、(3)2030年までに週15時間労働の時代が到来し、現在のように週40時間労働をすれば、失業者を生み出す結果となる。
下村文科相は右の未来予測を示した上で、いまのままの教育では日本は到底持たないこと、どんな時代にもしっかりと生きることのできる教育を実現するために、国がいま教育に一番力を注がなければならないと強調した。
確かに、世の中は大変なスピードで変化しつつある。うかうかしていると、自分のすることがなくなってしまうやもしれぬ。その上、もう1つ重要なことがある。生命科学の画期的な進歩である。現在マウスの実験で成功している命の若返りを促す医療が人間に施される場合、いま生まれた赤ちゃんは、なんと148歳まで生きるという。日本人の平均寿命はあと20年ほどで100歳を超えるとの予測もある。平均で100歳であるから、前述のように150歳近くまで生きる人も少なくないだろう。
寿命が延びれば、人生の在り方も根本的に変化する。そのような時代に必要なのは真に自分の人生を創造する能力である。豊かな感受性と活発な知的活動なしには、100年を超える長い人生を充実して生きることなどできない。100歳を過ぎてもなお、人生を生産的に生き抜くたくましさと賢さを子供たちに養ってやらなければならない。教育が重要になるゆえんだ。
にもかかわらず、財務省は今後約10年間で小中学校の教員約4万人を削減するという。これによって国が負担している人件費、約780億円を節約できると主張するのだ。
中教審の一員である横浜市長の林文子氏が現在でさえも教員不足は深刻で、4万人の削減は受け入れ難いと訴えた。出席委員の多くが、教育は文科省一省の仕事ではあり得ず、政府を挙げて、最重要課題として考えるべきだと語った。財務省は教育を単なる財務上の数字と考えてはならない。数字を語るなら、教育予算の増額であるべきで、減額ではない。減額を主張するのは、教育の本質を見ていない証拠だなど、財務省批判が続いた。
とはいっても、財政赤字は本当に深刻だ。国の予算から教育にもっとお金を出すのも1つの重要な手立てだが、ここは民間の力を大いに活用したらどうか。例えば、州にもよるが、米国では、日本の地方税に相当する州税の一部を教育に注入する方法が採用されている。高い給与をもらって高い地方税を払っている人は、それだけ多くのお金をその州の教育目的に寄付することになる。地元の校長先生からお礼を言われたと、この発言者は語ったが、地方税の一部を自動的に教育に回すのは1つの可能性だと思う。
もう1つの有力な案は寄付の勧めである。日本社会の特徴は余裕のある高齢者が多く存在することであろう。こうした人々が孫や子供など身内だけでなく、教育のために資産を寄付するのだ。そのための税制を整える。国全体で教育を充実させるために教育基金をつくり、心ある人々の支えを得て、日本の子供、学生の全てに恩恵を及ぼす。教育大国の実現である。教育こそ国のもといである。ここに最大限の支援を集中させたいものだ。
