「 沖縄統一地方選で見えてきた県内世論の微妙な変化 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年9月20日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1051
9月7日、沖縄県統一地方選挙が行われた。注目の名護市議会議員選挙では、普天間飛行場の名護市辺野古への移設に反対する革新系市議が定数27のうち14議席を占めた。2議席の公明党を加えると反対勢力は計16、11にとどまった移設に賛成の保守陣営が敗北した。
同市の稲嶺進市長も強固な反対論者、議会多数派も反対勢力が占めたため、普天間問題の展望を悲観視しがちなのが“本土”である。だが、現地の保守陣営は意外に楽天的だ。石垣市議会議員の砥板芳行氏が語った。
「安全保障上の沖縄の重要性と、眼前の中国の脅威を考えると、普天間の県外移設は考えられないほど危険です。そのことが分かっていますから、仲井眞弘多知事は辺野古移設を了承しました。県と中央政府のこの取り決めに介入する行政権限は名護市にありません。埋め立て工事はすでに進行中で、そこで働いているのは沖縄の人々です。
メディアは連日、県民の反対を煽るよう報道しています。メディアの影響力は大きいのですが、それでも、名護市民も沖縄県民も、物事をもう少し全体的に捉え始めたと思います」
砥板氏がこう語る理由は、革新から保守へと、微妙に票が移りつつあるからだ。今回選挙が行われた五市のうち、革新陣営が議席を増やしたところはゼロである。前述したように名護市は依然として革新陣営が多数派だとはいえ、1議席減らしているのだ。沖縄市は保守陣営の16に対して革新四、宜野湾市は保守が全員当選で15議席獲得したのに対し、革新は3議席減だった。石垣市は保守が1議席増、革新1議席減である。南城市は保守15、革新5で変化はなかった。
今回の市議選で見る限り辺野古移設反対の革新陣営が多数派を取ったのは名護市だけなのだ。
11月16日の知事選挙は、安倍政権にとって敗北の許されない重要な選挙だが、辺野古移設を受け入れた現職の仲井眞氏の劣勢が伝えられる。この点についての中山義隆石垣市長の分析は興味深い。彼はいま47歳、沖縄保守陣営の若きホープである。
「われわれは、何とか勝てると思います。県内41市町村中、30人の首長が仲井眞知事の辺野古移設決定を評価して、知事選での支持を表明しています。反仲井眞勢力は11市町村にとどまっており、那覇市と名護市がこの中に入っています。首長の決定は当然、各自治体住民の支持が前提ですから、30対11の構図には大きな意味があります」
反仲井眞の旗頭として知事選に出馬するのは翁長雄志氏、現在那覇市長を務めており、もともと自民党議員だった。ところが自民党系地方議員と共産、社民、経済界の一部に担がれ、辺野古移設反対を掲げて出馬した。当初の共産党などとの合意は県が政府に与えた「埋め立て承認を撤回し、政府に事業中止を求める」というものだったが、これが七月段階で変化し、「新しい知事は承認撤回を求める県民の声を尊重し、辺野古新基地は造らせない」に修正された。
これをどう読むか。中山石垣市長が解説した。
「ベテランの自民党政治家の翁長さんは県と中央政府の合意はもはや覆らないことを知っています。けれど、仲井眞氏に勝つには違いを出さなければならない。しかし、明確に『中止させる』とまでは考えていないでしょう。そんなことは事実上できない。県民にもそんなことでよいのかという思いが浸透しつつある。政治家に現実遊離は許されないし、無責任です。11市長のうち、40代、50代の若い首長は5人もいます。われわれが一致団結して仲井眞氏を支え、まともな国防論を展開すれば、勝てると思います」
着実に進む沖縄政治における世代交代が知事選の渦になる予感がする。