「 どこか焦点がずれている安倍政権の女性・少子化対策 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年8月9・16日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1046
安全保障・外交政策などでは安倍政権を高く評価するが、家族の捉え方、女性の役割の評価の仕方については、疑問を抱く。
・指導的地位に占める女性の割合を2020年までに3割以上に増やす。
・配偶者控除を見直す。
・少子高齢化を克服して、50年後に人口1億人を維持する。
・子供の健全な発育のために家庭教育を重視する。
これらの課題を実現するにはよほど配慮の行き届いた目配りが必要だ。女性の社会進出奨励には大いに賛成だが、家庭における女性の役割を評価しないかのような現在の議論は日本の将来に禍根を残しかねない。新しい価値観を積極的に取り入れながらも、日本社会を支えてきた善き価値観を守る発想が、いまこそ必要である。
首相がこれまでに描いてきた理想の日本の姿は、家族が睦み、古里と国に誇りを持ち、一人一人が志を遂げることのできる社会の実現であろう。戦後失われた日本の善き価値観を21世紀に新たに取り戻すことであり、首相の悲願、憲法改正も、そこに行き着く。
女性の活躍、少子化の克服などについて、これまで政府が講じてきた施策はどこか焦点がずれている。そのずれが安倍政権の下で拡大されつつある。理由は一番大事な日本の善き価値観を十分に評価することなく、もっぱら新しい考え方に集中しているからではないか。女性のためとしながら、肝心の女性たちの気持ちに必ずしも沿っていないのではないか。具体的に少子化と家族の在り方について見てみよう。
1990年代から今日まで、厚生労働省は少子化対策の柱として、(1)保育園を増やす、(2)女性の仕事と子育ての両立への支援を強化してきた。
(1)の目的はかなり達成された。保育園の数は増え、待機児童問題は地方都市では殆ど解決された。残る大都市のために、現在も保育園は作られている。
が、ここでも大きな問題がある。働く女性のために待機児童をなくしたいとするあまり、ゼロ歳児から預ける制度の徹底を図ってきたが、それは本当に子供のためになるのか。
3歳までの育て方が子供の人格形成に決定的な影響を及ぼすとされ、3歳までは親がしっかりと育てるという価値観がかつてはあった。いま、それを否定する政策が、女性のための善意の政策として進められつつあるが、それで本当に良いのか。参議院議員の山谷えり子氏らは、世の中に待機児童は居ない、居るのは待機親であり、子供は母親と一緒に居たいのだと喝破したが、私もそう思う。
(2)については育児休暇制度が広く採用された。が、それを除けば、大きな成果はない。その理由を中京大学教授の松田茂樹氏は、施策が正規雇用者同士の夫婦を念頭に置いているからではないかと分析する。いま、議論されている配偶者控除廃止の方針に見られるように、妻がパートで働く世帯への配慮が不十分なのだ。
ここに興味深い調査がある。日本家族社会学会の調査である。それによると日本人の幸福感は以前もいまも大きな変化は示していない。つまり、夫が働き妻は家を守るという典型的家族の満足度が「非常に高い」のだ。
子供の生まれる前は残業を含めて働きたいと考える女性は多いが、子供が生まれると、とりわけ子供が3歳以下の場合、残業を受け入れる女性はなんとゼロ%になる。子供を持つ女性の希望はやがて短時間勤務に、さらに、母および主婦としての役割に重点が移っている。主として夫が働き、妻が家を守るという家族の在り方に、夫も妻も高い満足度を示しているというのだ。
母および主婦の役割を果たす女性に、もっと配慮し、働く女性と共に主婦をも元気づける政策こそが重要だと強調するゆえんである。配偶者控除の廃止は大きな間違いだと思う。