「 拉致で初の国際会議、狙いは中国 」
『週刊新潮』 '06年12月7日号
日本ルネッサンス 第242回
北朝鮮の6か国協議への首席代表、金桂寛(キムゲグアン)外務次官が11月28日、強気の発言を行った。
「核実験を通じて、我々に対する制裁の圧力に対応できる防御策をとっているので、堂々と話ができる」
「(米国との争点は)余りにも多い。今から絞らなければならないので話し合ってみないとわからない」
核保有を新たな前提とした強気の発言は、6か国協議が再開されても、北朝鮮が自ら核を放棄させる道筋の遠さを痛感させる。であれば、拉致問題の解決はどうなるのか。有本恵子さんの母親の喜代子さんは言う。
「政府関係者をはじめ、力を尽くして下さっています。けれど、ここまで金正日を追い詰めながら、その先が未だ見えてきません。私も年ですから、常に不安がつきまといます」
家族はこれまで不安を乗り越えるために、不安の中に埋没せず、積極的に行動してきた。今回もまた、彼らは大きな力を結集しつつある。
「拉致被害者家族連絡会」「救う会」「拉致議連」の3組織の主催で、12月13日、大規模な国際会議が東京で開催される。予定参加者は米国のレフコウィッツ北朝鮮人権特使をはじめ、米、仏両国の北朝鮮人権問題専門家、タイの国連北朝鮮人権問題担当特別報告官のウィテット・ムンターポーン氏らである。韓国からは、北朝鮮に拉致された女優の崔銀姫(チェ・ウニ)氏が、拉北者家族協議会の崔祐英(チェ・ウヨン)氏らと共に参加する予定だ。
崔銀姫氏は北朝鮮で中国マカオの拉致被害者「マリア」さんと1年間共に暮らした。また、フランス人の拉致被害者についても詳しい人物だ。
救う会常任副会長の西岡力氏が語る。
「マリアという中国人被害女性と1年間、暮らしたわけですから、彼女の様子について詳しく語ってくれると期待しています。訪中した安倍総理は温家宝総理に、中国人に拉致被害者はいるかと尋ね、温総理は『確認していない』と答えました。しかし崔さんの証言で、中国人も拉致されていたことがはっきりします」
遅れる一方の政府の対応
崔銀姫氏が直接語れば、国際社会に拉致被害がいかに広く及んでいるかを示す強いメッセージとなる。拉致被害者に中国人も入っているのであるから、中国政府が拉致問題に背を向けることも、出来にくくなる。
「それが私たちの狙いであり、同時に我々は、中国の国民にもメッセージを送ることが出来ると期待しています。我々は中国共産党の政治は快く思っていないけれど、中国の国民の味方であるというメッセージです」と西岡氏は期待する。
救う会会長の佐藤勝巳氏が語った。
「なんといっても、初の国際会議です。北朝鮮に関する問題は核、ミサイルだけでなく、拉致もあるのだということを広く国際社会に示し、とりわけ金正日に厳しく突きつけなければなりません」
家族会及び救う会は、26日、官房長官らと会談、日本政府は6か国協議の場でも積極的に拉致問題を取り上げることを確約した。
他方、特定失踪者問題調査会代表の荒木和博氏は留保をつける。
「特定失踪者は400人以上はいます。11月16日に、漆間巖警察庁長官が松本京子さんが拉致被害者であると断定したことを発表、20日には正式に政府認定されました。認定を歓迎すると共に、やはり遅すぎるのではないかと言わざるを得ません。正式に認められた拉致被害者はこれで17人、小泉前首相の02年の訪朝以来、2年に一人の割合で新たな被害者が認定されてきたわけです。このペースでは、全員の認定までどれくらいの年月がかかるかわかりません」
荒木氏は、政府も警察もこれまで十分には手をつけてこなかった特定失踪者問題を孤軍奮闘の形で手がけてきた。その立場から、政府の対応の注文をつける。
「証拠がなければ、拉致とは認定出来ないことも、認定した被害者が実際には拉致されていたのではなく、他の理由で失踪したかもしれないという恐れもわかります。責任問題になるかもしれません。しかし、それでは多くの拉致被害者は北朝鮮でその命を終えてしまいます」
拉致被害者と思える人々全員を早期に正式認定してほしいというのは、被害者の立場に立てば当然の要求だ。しかし、松本京子さんの認定のプロセスからも、いかにこの種の判断が困難を伴うかが見えてくる。
松本さんは1977年、鳥取県米子市から姿を消した。拉致の疑いがありながらも、国内で犯罪に巻き込まれたのではないかとの疑問が拭えなかった。だが、今回、事情を知っている人物が約30年振りに口を開き、国内犯罪との関わりが否定され、拉致されたことが確認されたのだ。
真の悪と闘うために
荒木氏が指摘した。
「特定失踪者の多くは20年から30年前に姿を消しており、当時の状況が本当に掴みにくいのは承知しています。にもかかわらず警察は真正面から捜査します。つまり、証拠固めを先行させるわけです。当然、証拠はなかなか固められない。拉致の認定は出来ない。北朝鮮に対して、返せとも、安否を確認して報告せよとも言えないわけです。
つまり、ここで拉致捜査にブレーキがかけられるのです。ですから、特定失踪者といわなくてもいい。被害者救出を考えれば呼称などどうでもよいのですから。グレーゾーンを設け、拉致された人々がいるという確かな事実の上に立って、政府の力で積極的に情報を収集してほしい」
被害者がどのあたりで、どんな仕事をさせられているかを調べるのは、全く不可能ではないと氏は語る。体制が緩んだいま、北朝鮮からもれ出てくる情報は非常に多い。それらを収集し系統的に分析していけば、かなりのことがわかると氏は主張する。
「政府にそれをやってほしいのですが、いまの政府の情報収集本部には、事実上、常勤の専門家がいません。せめて、常勤の専門官を置いて分析すれば、北朝鮮情報はいまの点と点を結ぶ情報から、面へと広がり、その分、対策が立てやすくなります」
拉致問題の底知れない悪の闇は、しかし、荒木氏の提言を実行したとしても尚残る。北朝鮮が拉致する際に狙ったのは、身寄りがなく、友人もなく、目立たない人物で、失踪しても誰も気にしないような人物が多いとされるからだ。西岡氏が指摘した。
「仮に拉致被害者が100人と仮定します。我々が特定失踪者として把握しているのは、おそらくその内の4割かそこらです。6割ほどの人は、尚掴みきれていないと考えるべきでしょう」
ドキュメンタリー映画「めぐみ」を見た米国政府関係者が、「真の悪とはこういう行為だ」と語っていたが、金正日という真の悪への対処を打ち出すためにも、その背後に控える中国を動かすためにも、13日の国際会議は重要な山場となる。
漆間長官の決意宣言と受け取っていいのだろうか、それとも
長官の任期の問題もあるし、警察不祥事からの目くらましとも思える点もありでどうにも(だからこそ点数稼ぎの為にやりぬくと思いたい気持ちもある)
トラックバック by 「『我思う』と我思う」故に「『我在り』と我思う」気がする — 2006年12月11日 19:23
北朝鮮に時間稼ぎをさせるな
北朝鮮がまた、時間稼ぎをしようとしている。 北朝鮮の長距離ミサイル、核兵器は、日
トラックバック by 野分権六の時事評論 — 2006年12月14日 14:32
北朝鮮人権週間を振り返って–八女・筑後市の拉致パネル展示ご御案内
先週は初の北朝鮮人権週間で福岡県庁1階ロビーでの拉致被害者パネル展示の準備や13日の福岡県主催の拉致問題研修会、翌14日の福岡市主催の拉致問題パネルディ…
トラックバック by なめ猫♪ — 2006年12月20日 21:58