「 中韓国民感情を煽る朝日の世論調査 」
『週刊新潮』 2014年4月17日号
日本ルネッサンス 第603回
「読んでびっくり朝日新聞の世論調査」─思わず私は呟いた。4月7日の1面、「行使容認反対63%」「集団的自衛権 昨年より増加」の見出しが目立つ記事の、そのとんでもなさにびっくりしたのである。
集団的自衛権行使を容認するか否かは日本が決めればよいことだ。しかし、朝日は中国と韓国にまで出かけて行って、正確には現地の調査会社を通じて、中国人と韓国人に面接方式で尋ねたのである。
集団的自衛権の行使容認を日本が急ぐのは、中国の軍事的脅威の高まりゆえだ。北朝鮮有事に際しても、集団的自衛権が行使できなければ、日本の安全に深く関わる韓国への支援も十分にはできない。中国の北朝鮮支援も、日本が急ぐ背景にある。
にも拘わらず、朝日は選りに選って中国の意見を聞きに行った。朝日の質問は49項目、安倍内閣への支持や日中・日韓関係、靖国参拝、慰安婦、憲法改正などと共に、集団的自衛権について問うている。
日米安保体制を機能させるのに集団的自衛権の行使容認は不可欠で、安保体制の最大の対象が中国である今、歴史観や相互に対する国民感情を尋ねるのはまだしも、その中国に集団的自衛権行使についてお伺いを立てるとはどういう魂胆か。
加えて、朝日の質問は顕著に偏っている。たとえば次の問いだ。
①「日本にとっての集団的自衛権とは、同盟国やその軍隊が攻撃されたときに、日本が攻撃されていなくても、日本に対する攻撃とみなして一緒に戦う権利のことです。日本はこの権利を持っているが、憲法第9条により行使できない、というのが政府の解釈です。集団的自衛権についてどのように考えますか」
ここに見られる偏向の第一は、前提を全て省いていることだ。集団的自衛権は国連が全加盟国に認めている権利であること、中韓両国もその権利を有し、いつでも行使できること、日本一国だけが、憲法を厳しく解釈することでその権利を放棄している事実を朝日は紹介していない。
脅かしているのは中国
調査会社の面接を受けた中韓両国民は日本の集団的自衛権のことなど殆ど考えたこともなく、広い世界で日本だけが同権利を自己規制しているなどとは全く知らないだろう。
ただでさえ、両国民は日常的に反日的情報に晒され、日本が軍事大国化などあらぬ方向に暴走しているような印象を抱いている。そうした反日イメージを掻き立てる報道を発信しているのが朝日ではないか。
従って、①の問いに対して、A「行使できない立場を維持する(ほうがよい)」、B「行使できるようにする(ほうがよい)」で二者択一を求めれば、Aの回答が多数を占めることは想像がつく。事実、中国人の95%、韓国人の85%がAを選んだ。
朝日は安倍晋三首相が余程、憎いのだろうか、安倍政権下の日米軍事協力を危険な動きであるかのように捉えて以下のように尋ねている。
②「安倍政権は、集団的自衛権の行使を検討するなどしてアメリカとの軍事協力を強めようとしています。こうした安倍政権の姿勢は、東アジアの平和と安定にとって(プラス、マイナス)どちらの面が大きいと思いますか」
中国人の94%、韓国人の88%が「マイナスの影響が大きい」と答えたが、偏見を助長するような朝日の問いへの当然の答えであろう。
次の問い③は「安倍政権が集団的自衛権の行使を検討するなどアメリカとの軍事協力を強めることで、東アジアの軍事的な緊張が高まると思いますか。そうは思いませんか」だ。
これには中国人の91%、韓国人の78%が「軍事的緊張は高まる」と答えたが、問いの②も③もアジア情勢の本質を見誤っている。この二つの質問は、原因と結果を取り違えたうえに、尋ねる相手も間違えている。
東アジアの平和と安定を脅かしているのは中国の異常な軍拡であり、日米軍事協力ではない。世界第2の軍事大国中国は、今年度も軍事費を対前年度比で12・2%増やす。軍事大国化の実績を背景に、南シナ海、台湾、尖閣諸島も中国の核心的利益だと宣言した。南シナ海では今も、中国がフィリピンのスカボロー礁とアユンギン礁を奪いつつある。尖閣諸島を含む東シナ海上空には防空識別圏を設けた。この瞬間も、尖閣諸島周辺のわが国領海と接続水域に中国の公船が侵入を繰り返している。日米軍事協力は、中国のこうした軍事的脅威を抑止するためである。
東アジアのみならず、アジア全体が中国の不透明な軍事大国化と覇権主義、その侵略行為によって緊張に直面しているのである。その軍事的緊張が紛争や戦争につながらないように抑止力を働かせるのが、日本の集団的自衛権の行使容認であり、日米軍事協力の強化である。
フィリピン、マレーシア、インド、オーストラリアをはじめアジア・太平洋の国々は、そうした日米の努力を切実に必要としている。
意図的な虚偽報道
朝日は世論調査で、安倍政権の集団的自衛権行使容認の動きを、おどろおどろしく恐いものだとする見方へと誘導し、その上で、中韓両国民の回答を1面の記事で「安倍政権が行使容認に踏み切る場合、中韓両政府だけでなく、両国民からも大きな反発を受けることが予想される」というふうに述べ、集団的自衛権の行使を牽制するのである。
これを世間ではマッチポンプという。いま日本を限りなく貶めている慰安婦問題も、同じ構図の中で作られてきた。1991年8月11日の朝日に掲載された植村隆記者の記事が大きなきっかけのひとつだった。氏は韓国の女子挺身隊と慰安婦を結びつけ、日本が強制連行したとの内容で報じたが、挺身隊は勤労奉仕の若い女性たちのことで慰安婦とは無関係だ。植村氏は韓国語を操り、妻が韓国人だ。その母親は、慰安婦問題で日本政府を相手どって訴訟を起こした「太平洋戦争犠牲者遺族会」の幹部である。
植村氏の「誤報」は単なる誤報ではなく、意図的な虚偽報道と言われても仕方がないだろう。
だが、もっと酷いのは朝日新聞社そのものだ。植村記者の描いた挺身隊=慰安婦=強制連行の図式を社説でも天声人語でも取り上げて広めた。捏造記事で反日感情を掻き立て、朝日は日本政府に謝罪を迫るのだ。
私の口から思わず飛び出した「読んでびっくり朝日新聞の世論調査」という表現は、『読んでびっくり朝日新聞の太平洋戦争記事』(リヨン社)という、絶版に追い込まれた本の書名に由来する。これは、いま、『朝日新聞の戦争責任─東スポもびっくり!の戦争記事を徹底検証』(太田出版)として出されている。朝日の酷さを知りたい方には極めて面白い。こんな新聞がいまだに700万部も売れているとは、びっくりだ。