中国の軍事を予言してきた羅少将の不穏な発言
『週刊ダイヤモンド』 2014年2月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1020
乱暴発言で中国人の絶大な支持を受ける羅援少将が1月22日、またもや乱暴極まる発言に及んだ。「中国と日本が開戦すれば、中国のミサイルで日本は火の海になる」というのだ。
氏は現在、中国軍事科学学会の会長を務めている。高級幹部を父に持つ子弟らで構成する太子党の一員で習近平国家主席とも親しい。
北朝鮮を連想する右の発言は、「中国は国土も広く、戦争での持久力は比較的強いが日本はそうではない」「中国は余裕で日本に勝てる」というふうに続いている。
こんな非常識発言は、本来は無視してもよいのだが、事はそう簡単ではない。氏をはじめとする中国軍人の突出発言は、多くの場合、現実のものとなってきたからだ。
例えば、もう一人の太子党出身の軍人、海軍情報化諮問委員会主任の尹卓少将は2009年、「中国はインド洋沿岸に補給基地を設けるべきだ」と語った。名目上はアデン湾の海賊対処と護衛任務のためと説明されたが、真の目的がインド封じ込めであるのは明らかだ。そして、いま、中国はスリランカやパキスタンの港の拡張工事と共に補給基地建設を進めつつある。
10年、韓国の哨戒艦「天安」が北朝鮮に撃沈されたとき、米韓合同演習が朝鮮半島の西側、黄海で計画された。羅少将は「米韓演習の予定地は北京から約500キロメートルしかなく、中国の心臓部の安全を脅かしている。歴史上、外国軍が侵略する際、黄海から入ってきたことは何度もある」と警告した。
米韓両軍は演習海域を黄海から日本海に変更したが、これは羅少将の警告を中国政府の警告と見なした米国の譲歩であろう。
同年9月19日、尖閣諸島のわが国領海に中国漁船が侵入したとき、羅少将は「日本が東シナ海の海洋資源を握れば、資源小国から資源大国になってしまう」「中国人民は平和を愛しているが、妥協と譲歩で平和を交換することはあり得ない」として、断固たる軍の介入を求めた。
その後、中国が軍事力を背景に強硬対応を続けているのは、いまさら言うまでもない。13年春には軍と一体化した中国海警局が創設され、尖閣および東シナ海対応に中国が人民解放軍の力の注入に余念がないことも明らかだ。
11月には東シナ海で防空識別圏が設定されたが、羅少将は同件についても、実は中国政府が発表する数ヵ月前に「防空識別圏を設けるのは日本人の特権ではない。われわれも設置することができる」と、述べていた。中国政府による防空識別圏の発表は13年11月23日だった。
また、中国が国際社会では戦闘行為と見なされている火器管制レーダーを海上自衛隊の艦船に照射する2週間前に、羅少将は「中国は海自に対してレーダー照射を行え」と発言していた。
そしていま、羅少将が強調するのは「日本は奇襲が得意な国で、東海戦略で、中国は高度な警戒を保つ必要がある」というものだ。
中国政府の軍事戦術を具体的に「予言」してきた羅少将の発言は、氏と習主席間の意思の疎通ができていることを意味する。中国政府や軍が正式発表する前に発表できる立場に彼がいるということだ。ただの乱暴者の発言ではないことに留意しなければならない。
それだけの影響力を持つこの軍人が好んで用いるのが「歴史と現実の双方が求めているのは、中国の『富国強軍』だ」という表現である。孫子の兵法の国・中国は、戦いに勝てるとなれば必ず出てくる。そのような国を自制させる最善の方法は、中国はとても勝てないと思わせる十分な力をこちら側がつくり上げることだ。いま平和をもたらす最大の要素が軍拡なのである。そうした現実を前に、沖縄での反自衛隊反米軍基地の機運こそ不安のもとだ。