「 学校教育の充実とエリート層の育成が急務 」
『週刊ダイヤモンド』 2013年10月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1006
10月9日の「産経新聞」1面を見て、心底うれしく思った人は少なくないはずだ。そこには「日本『成人力』世界で突出」という見出しが躍っていた。
これは経済協力開発機構(OECD)が行った初の成人の能力を測定する調査結果である。対象国・地域は世界24に上り、16~65歳の成人約15万7000人が対象となった。
調査項目は(1)読解力、(2)数的思考力、(3)ITを活用した問題解決能力だった。日本の大人は(3)に問題を残したが、(1)と(2)では断トツの1位だったのだ。
私たちは長年子どもたちの学力低下に悩んできた。OECDの調査でも日本の子どもの学力低下に歯止めがかかっていないことは明確に示されている。今回の大人の知的能力の調査でも、日本の大人のうち、16~24歳の若い大人は中高年に比べて成績は振るわない。他国の同年齢の層に比べれば水準は高いが、肉迫されているのだ。それでも全体で日本の成人の知的能力は世界一という調査結果がうれしくないはずはない。
一方で課題も見えてくる。右の調査は、日本の大人の成績は真ん中あたりに集中していて最上級も最下級も他国に比べて非常に少ないのである。
例えば、読解力だ。「レベル1未満」から「レベル5」までの6段階で、日本は「レベル3」の人の割合が48.6%で最も多かった。
他方「レベル1」はOECDの平均が12%だったのに比べて日本は4.3%、「レベル1未満」ではOECD平均の4.3%に対して日本は0.6%と、いずれも非常に少ない。
調査は対象者を中卒、高卒、大卒に大別して行われたが、日本の特徴の一つは中卒者の成績がとてもよく、OECD平均の高卒者と同じ水準だったこと、米国とドイツの高卒者と比べた場合、彼らよりも高かったことだ。
私はここである人物を思い出さずにいられない。15歳で入社し、30年間真面目に働き45歳で社長となり77歳になった今年の10月1日付で第一線を退いた人物だ。
この方の会社の前を通ると、社員の皆さんが元気なあいさつの声をかけてくださる。私はこの方の会社の事業内容はよく知らないのだが、会社の前を通るたびに交わすあいさつと社員の礼儀正しさが日本人の徳を実感させてくれる。まさにこうした人々がいて、日本は何とか今日まで持ってきたと実感する。OECDの調査が示しているのはそういうことではないかと思う。
さて、調査は一方で、最上位の「レベル5」で日本が振るわないことも示している。読解力で4番目、数的思考力で6番目だ。日本の教育は、平均的に非常に高いけれど、突き抜けて力を有する人が少ないということだ。これは、誰も皆平等で差別はいけない、エリートを育てるより、落ちこぼれをなくすことが大事として、ゆとり教育に徹してきた結果であろう。
そこでいま、日本に必要なことが2つ頭に浮かぶ。1つは、前述の若年層の水準が中高年に比べて低いという事実から学校教育の充実を急ぐべしということだ。もう1つは、社会を引っ張っていくエリート層の育成を急ぐことだ。読解力にも数的思考力にも優れ、物事を全体的に見て判断できる人材の育成が、日本が国として過ちなきように進み続けるのに欠かせない。そのときに必須なのが日本人教育、つまり日本の文化や歴史教育だと思う。
人生も、会社経営も、国の進路も、自分自身が何者であるかを知ることなしには決められないことがある。日本という国、日本人という民族がどんな価値観を社会の根幹に据えて歴史を紡いできたかを知ることで初めて正しく判断できる場合がある。
立派な日本人としての判断や指導力を養成する歴史教育の必要性をあらためて痛感したことだ。