「 新たな質的ねじれの解消 公明党に期待される役割 」
『週刊ダイヤモンド』 2013年8月3日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 996
安倍自民党の圧勝に終わった参議院議員選挙を振り返ると、いろいろなことが見えてくる。NHKをはじめ各テレビ局が主催した党首討論会では、自民党対その他の政党という構図の中で、自民党が孤立しているかに思えた。
原子力発電、集団的自衛権の行使、憲法改正などを例に取れば、公明党および野党にニュアンスの違いはあってもほぼ反対一色で、安倍晋三首相1人がその他の党首を相手に闘っているという風情だった。自民圧勝という結論は、メディアが報ずるこの雰囲気が世論の実態と大きく乖離していたことをあらためて感じさせた。国民が考え、感じている方向に沿って、事前の党首討論のあり方をもっと充実させる方法はないのだろうか。そうすれば議論は深まり、国民にとって考える材料を提供出来るはずだ。政策論争のあり方にひと工夫もふた工夫も凝らす責任がメディアにあると思うことしきりである。
自民党が参議院で115の議席を得たいま、過半数の122議席に7議席不足である。公明党が20議席を確保したために、自公連立の枠組みを保てば、計算上はねじれ解消で安倍首相にとってやりやすい状況が生まれた。だが、国のあり方に関する重要な問題になればなるほど、自公両党の考え方には大きな相違があり、ここに新たな質的ねじれが生まれようとしている。
例えば山口那津男公明党代表は、選挙期間中から自民党の「ブレーキ」としての役割を強調していた。私自身はこの種の後ろ向きの考え方自体にあまり共感出来ない。せっかくの政治勢力を公明党は前向きに使うより、止める力に使うと盛んに強調する。
山口代表は、「集団的自衛権の行使容認に動かないよう頭をひねらなければならない」と述べ、憲法改正については「国民が選択できるような論点が成熟するにはもう少し時間が必要。中途半端に大きな政治的エネルギーを要する課題に移っていくことは国民が望まない」などと語っていた。
山口氏は、投票日当日のフジテレビの選挙特番で集団的自衛権についてももう少し議論の時間が必要だと語った。しかし、日本はすでに集団的自衛権の問題を何年間も議論してきたのではなかったか。第1次安倍政権では集団的自衛権行使を容認する4つの場合を想定して議論し、行使容認の答申を出した。福田康夫氏がこれを無視したためにそのままになったが、この課題は十分過ぎるほど論じられている。現在に至っても「なお、議論が必要」と言うのは明らかに反対だということだ。現に選挙期間中のBS番組では、山口氏は「断固反対する」と言い切った。
その時々で微妙に表現を変えるが、公明党の真意はあくまでも反対ということに尽きる。国防、憲法問題で自民党との調整はなかなか難しいだろう。そこで日本維新の会が得た九議席、もしくはみんなの党の18議席が大きな意味を持つことになる。この3党間にもそれぞれ微妙な違いはあるが、調整不可能な次元ではない。
日本がなぜ、いま、集団的自衛権の行使に踏み切らなければならないかは、尖閣諸島の状況を見れば明らかだ。その延長線上でなぜ憲法改正が必要かも明らかだ。こうしたことを否定するとしたら、公明党は中国の膨張主義の前でいかにして尖閣諸島を守るのか、具体策を示す責任がある。
公明党との連携を重視しながらも、安倍首相は維新、みんなとの連携を、他の政策全般においても進め、政治を前向きに展開させ、テンポよく問題対処の策を講じていくと思う。停滞していた政治は、昨年12月以降、見違えるほど活発化したが、今回のねじれ解消で、さらに、政治の問題解決能力は高まっていくだろう。そうした中で、公明党も国際社会の現実の厳しさを認識し、憲法改正などについても、理解し始めると、私は期待している。