「 朴槿恵氏を選んだ大統領選挙 『大人たちが韓国を死守した』 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年12月29日・2013年1月5日合併号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 967
12月19日、韓国大統領に朴槿恵(パク・クネ)氏(60歳)が選ばれた。「左翼の中の左翼」といわれる文在寅(ムン・ジェイン)氏に100万票の差をつけた。5年前、李明博氏は他の2人の候補を退け、500万票の差で選ばれたが、この5年間李大統領には保守派としての実績は何もない。支持率低下にあえぐ政権末期には求心力を高めるべく竹島に不法上陸までしてみせた。500万票差で当選しても左翼陣営に振り回され、妥協を重ねざるを得なかったのであれば、100万票差の朴氏の立場はどう分析したらよいだろうか。
その答えの一端が投票率の高さ、とりわけ50代、60代以上の世代の投票率の高さから見えてくる。親北朝鮮に傾く、若者世代を代表する文氏は、投票率が60%を超えれば有利だと報じられていた。しかし、投票率は前回より10ポイントも高い75・8%で、文氏ではなく朴氏が勝った。
今回の選挙を世代間の闘いとみる統一日報論説委員の洪熒(ホン・ヒョン)氏が語る。
「われわれ50代以上の世代が、北朝鮮の怖さを知らない若者世代の票で朝鮮半島の運命を決められてたまるかという思いで投票したのです。選挙が終わったばかりでまだ正確な世代別投票率は把握出来ていませんが、恐らく80%を超え90%台に届くほどの勢いで高齢層が投票に行ったと思います。20代の若者たちは、まるで文化大革命当時の中国の紅衛兵のように、体制反対だけで世界情勢も北朝鮮の実情もわかっていないと思います」
2011年3月、韓国の哨戒艦天安が北朝鮮の潜水艦発射のミサイルで撃沈された事件について、若者たちの3割がいまだに北朝鮮の犯行とは信じていない。言葉巧みな左翼陣営に騙されている若い世代の思い込みで韓国の将来を危険に晒してはならないと、高齢層が立ち上がった、それが高い投票率でも朴氏が勝った要因だというのだ。
「物事のわかっている大人たちが、韓国を死守したんです」と洪氏は語る。ただ、朴氏には不安も付きまとう。
彼女の父、朴正煕元大統領は、いまも各種世論調査で韓国人の絶大なる支持を誇る。その統治は、当時は韓国を上回る力を備えていた北朝鮮と対峙する必要から、思想的取り締まりを強化するものとなった。そうした面を日本のメディア、とりわけ「朝日新聞」などは実態以上に強調し、韓国を厳しい弾圧の国、自由のない暗黒社会といった趣で報じ続けた。しかし韓国国民は朴元大統領を「威厳のある父親」のように見て、その他の歴代の大統領と峻別し、ダントツの支持を与えている。
にも拘わらず、朴槿恵氏は今回の選挙期間中に朴元大統領の娘であるが故に左翼陣営から激しい攻撃を受け、亡き父の統治について謝罪に追い込まれた。父の信条を信じ切ることが出来ずに謝ったと見れば、それは彼女の性格的弱さということにもなる。
もう一つ、朴氏は選挙期間中に多くのバラまき政策を公約として掲げた。性格は「真面目」と評される彼女は、当選直後の記者会見で「約束事は守ります」と明言している。しかし、すべて守るのはどう考えても不可能である。果たせない約束を野党勢力が厳しく非難するのは目に見えている。そうしたとき、国家としての課題に優先順位をつけなければならない。それは出来ないこともあるのだと、国民を説得することだが、はたして彼女にそれが出来るかと懸念する声もある。
加えて、北朝鮮の情勢はすでに危険水域に達している。背後の中国が北朝鮮を支配下に収めると同時に、韓国をも視野に入れて影響力強化を狙っている。アジア・太平洋地域で進行中の地殻変動的パワーバランスの変化に朴新大統領がどう対処するか。彼女が米国および日本との緊密な協力こそ韓国の生命線であることを理解し、無意味な反日路線を抑制していくことを、日韓双方のために願うものだ。