「 首相より時給高い各省審議会の天下り官僚の報酬を断罪する 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年6月16日号
オピニオン縦横無尽 399
6月6日の国会は、小泉内閣になって初めての党首討論で盛り上がった。党首討論では、小泉首相が野党党首を圧倒する勢いだったが、委員会をみると野党議員の健闘が目立っていた。
たとえば衆議院決算行政監視委員会である。民主党の上田清司議員が非常におもしろい調査結果を突きつけた。各省庁の下にはさまざまな審議会があるが、審議会委員や委員長の大半が、時給換算すると小泉首相よりはるかに高収入を得ているという統計である。
上田氏はまず、小泉首相が週休2日で1日8時間働いたと仮定して、首相の年俸4418万7000円を時間給に換算した。1時間当り2万1200円となる。だが、首相の仕事が1日8時間で終わるわけでも、週5日でこなせるわけでもない。したがって実際の時給額は、これよりはるかに低いと考えるべきだ。
一方、各審議会の委員長や委員はどうか。国土交通省に土地鑑定委員会というものがある。路線価などを決めるのが役割だが、この審議会には非常勤の会長が1人、常勤の委員が1人、非常勤の委員が5人いる。そのなかの常勤の委員はもちろん天下りの官僚である。この天下り官僚を含む7人の人びとがどのくらいの仕事をしているかを上田氏は述べた。上田議員が語る。
「1年間で13回会議を開き、各会議は約4時間で終了しています。それだけの仕事に対して月額118万5000円の給与に、賞与は5.7ヶ月分、年収にすると2272万6000円が支払われています。13日×4時間で52時間の労働ですから、時間給にすると、43万7000円になります」
次はこれまた国土交通省の審議会である航空事故調査委員会である。常勤の委員長はもちろん、天下り官僚、常勤委員も2人が天下り、非常勤委員は5人である。
この人たちは1年間で24回の会議を開き、会議は毎回5~6時間続いたという。最大値の6時間をとって年間144時間、年収2581万4000円は時間給にすると17万9200円になる。同じ手法で計算すると、厚生労働省の社会保険審議会の委員長は時給18万3300円、法務省の中央更生保護審査会委員長は10万7600円などとなる。
せいぜい月に1度か2度ほどの会議しか行なっていない委員会の長が、これほどの高給を受けるのかという驚きと、それが公費から出ていることへの憤りが湧いてくるのは、国民感情として当然のことだ。
上田氏が述べる。
「興味深いのは、各審議会や委員会の長はほとんどを天下り官僚が占めており、その給与は、局長クラスがたとえば日本道路公団のトップに天下った場合の給与とほぼ見合うものとなっていることです。これでは、官僚の利益のための委員会であり審議会であると考えるのは当然です」
この国のシステムはだれのためにデザインされているのかと疑わざるをえない。一般会計の規模は83兆円だが、特別会計のそれは391兆円だ。37にも上る特別会計を通るおカネは、一般会計の5倍弱もあるわけだ。
この巨額のおカネの流れは国会でチェックされることもなく、事実上、官僚たちの意のままに使われていく。国民の目に見えないところで、官僚たちの自己利益のメカニズムが、国民の利益を置きざりにするかたちで、わがもの顔に横行するのだ。
この国の病は、まさにこの見えざる官僚支配にある。この病を国民の目に見えやすく抉り出していくことが大切である。上田氏の調査結果は、その意味で国民に警鐘を鳴らし、この国を変える力をつくりあげていくための一歩でもある。