「 沖縄県伊良部町議会が決議した下地島空港への自衛隊駐屯要請が持つ重み 」
『週刊ダイヤモンド』 2005年4月2日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 586
東シナ海を事実上中国の海とし、日本の海洋資源を横から持ち去り、日本の領海をわが庭のように知り尽くした様子で侵犯する中国。その中国の脅威に、早く効果的な防備態勢をつくってほしいと、沖縄県伊良部(いらぶ)町議会が決議した。同町にある下地島(しもじしま)空港に自衛隊を駐屯させよという、政府への要請の決議である。
決議は、3月16日、切迫した状況のなかで、九対八の僅差で可決された。賛成した豊見山恵栄(とみやまけいえい)、謝花浩光(じゃはなひろみつ)氏ら9人の町議会議員の信念が、中国の脅威から日本を救う大事な一歩になると私は考える。
伊良部町のある伊良部島は、琉球列島のほぼ中間を占める宮古諸島の外れに位置する。昨年11月10日未明に、中国の原子力潜水艦が領海侵犯して通り過ぎた先島(さきしま)諸島にも、また中国が領有権を主張する尖閣諸島にもきわめて近く、目と鼻の先にある。3,000メートルの立派な滑走路を持つ下地島空港もこの町にある。同空港は、現在、民間によっても自衛隊によっても、ほとんど活用されていない。沖縄県は34年前に、同空港は自衛隊には使わせないとの姿勢を打ち出しており、稲嶺惠一(いなみねけいいち)現知事も同様の考えだ。
だが、伊良部町は、県の方針とは逆に、自衛隊の下地島空港への駐屯を国に要請したのだ。
彼らは問う。中国の原子力潜水艦による領海侵犯について、先島圏域の首長が誰一人として抗議の声を上げなかったのはなぜかと。沖縄県も、領海侵犯に対してなんの抗議も行なわなかったのはなぜかと。住民の安全を守るべき自治体の首長が、誰一人として声を上げなかったこと自体、寒心極まる。その理由は、首長らが「誰が地域を守り、県民を守るべきなのかまったく認識していない」からだと彼らは指摘する。そして「再び中国軍の領海侵犯が起こらないという保証はない」として、「先島圏域の住民の安全保障は、伊良部町の安全に尽きると認識し、政府の責任において緊急に自衛隊を誘致し駐屯を実施」してほしいと、「強く要請」したのだ。
この決議の持つ意味は戦術、戦略上、非常に大きい。現在、東シナ海で中国艦船が日本の領海を侵犯したり、尖閣諸島周辺でなんらかのかたちで展開したとしても、日本の海上自衛隊にできることは限られている。沖縄本島から海自のF4ファントムが飛び立ったとしても、30~40年も前に活躍したこの古い機種の戦闘機にとっては、片道420キロメートルの距離を往復するので精一杯である。対して、同空域に展開する中国側は、最新鋭のスホーイ27戦闘機である。
自衛隊内には、北海道に配備している、より新しい機種のF15を沖縄に移すべきだとの声もあるが、無視され続けてきた。中国の最新鋭戦闘機対日本の旧式戦闘機。東シナ海の制空権は完全に失われているのが現状だ。
日本の失われた制空権を日本の手に取り戻す最も有効な方法が、下地島空港の活用なのだ。先述のように、下地島空港は尖閣諸島の目の前にある。有事には、すぐに飛び立ち、現場に急行できる。420キロメートル離れた那覇から飛び立つのでは間に合わない事態でも、地元の下地島空港から飛び立てば十分に対処できるだろう。
同空港活用にはもう一つ、重大な意味がある。日本国の領土領海は日本国政府が守る、日本国民の安全と安寧を脅かすことは日本国政府が許さない、という政治意思を明確に中国に示すことになるからだ。日本が長年示しえないできた、「日本国は日本国政府が守る」という、普通の国なら当然の国家意思を、下地島空港への自衛隊の駐屯でようやく明確にすることができる。
小泉純一郎首相、大野功統(よしのり)防衛庁長官はじめ国政を預かる人びとは、伊良部町議会の決議を感謝して受け、一日も早く彼らの要請に応えよ。