「 中国こそ“中東の春”を弾圧し核兵器を拡散させている元凶 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年4月7日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 931
第2回核安全保障サミット出席のためソウルを訪れたオバマ大統領は3月26日、韓国外国語大学校で講演し北朝鮮の金正恩氏に直接語りかけた。
「核兵器の開発は北朝鮮のさらなる孤立と強い制裁を招くだけ」「挑発で見返りを求められる時代は終わった」。こう釘を刺して、「米国は北朝鮮の指導部に敵意は抱いていない」と述べ、「人工衛星」打ち上げの中止を要求した。
核安保サミットは、大統領に就任したばかりのオバマ氏が2009年4月にチェコ・プラハで「核のない世界」を目指すと演説したのを機に創設された。今回の事実上の主題は、かねて北朝鮮が4月に実施すると予告していた長距離弾道ミサイルの発射実験をやめさせることだった。
講演の形を取りながら北朝鮮の専制君主に呼びかけるという異例のスタイルは、オバマ政権の北朝鮮外交の未熟さを示している。
父親の遺訓しか縋るもののない金正恩氏には理屈も道理も通じない。力のみ、実利のみに意味を見いだす北朝鮮の指導者へのこの種の「理性的な誠実さ」は、下手をすると侮られる。
そう思いながら見たオバマ大統領の姿は驚くほどやつれていた。大統領就任当時のさっそうとした若さは消え去り、いまや白髪が目立ち、表情は疲労の跡をとどめていた。アフガニスタン問題を抱えつつ、中国の脅威に備えるべく太平洋回帰を宣言した米国の悩み、加えて大統領選挙に直面する立場での苦労を思わず想像した。
それにしても北東アジアでは北朝鮮、中東ではシリアとイランが紛争の種となり続けており、明らかに、それらの国々の背後に中国が控えている。
ソウルでは、北朝鮮の発射実験に対して日米韓露のすべてが、国連安全保障理事会の決議に違反するとして明確な反対を表明した。一方、中国は「深刻な事態」と述べたが、米国に北朝鮮との対話を要請するなど、北朝鮮擁護の基本姿勢は崩さなかった。
核安保サミットが、北朝鮮のミサイル発射実験への批判を共同宣言に盛り込むこともなく27日に閉会すると、それを待っていたかのように即日、朝鮮中央放送は「衛星」打ち上げは金正日総書記の遺訓であり、「絶対に放棄しない」「遺訓を一寸のぶれなく貫徹し、先軍(軍事優先)の道を続けることはわが党の不動の意志だ」という金正恩氏の言葉を報じた。
金正恩政権がこの強気の姿勢を保てるのも、中国の支援あってこそだ。いま金正恩政権は国民を食べさせるためになんとしてでも食糧を確保しなければならず、100万トンといわれる不足分はすでに中国が援助したことが明らかになっている。だからこそ、ミサイル発射で米国が約束していた24万トンの栄養食品がフイになる危険を冒してまで、実験強行の強気の構えを崩さないでいられるのだ。
一方で、中国はすでに8,500人の国民を武力弾圧で殺害したシリアのアサド大統領に対しても徹底的に守りの姿勢を続けている。国連安保理が昨年10月と今年2月、シリアへの制裁と警告の決議を採択したとき、中国はロシアと共に拒否権発動で退けた。
イランの核開発に関して同じく国連安保理が制裁決議を試みても、中国とロシアが退けた。国連の機能不全を見て取った米国は、昨年12月、対イラン金融制裁に踏み切ったが、これも、イラン原油の最大の輸入国である中国が、イラン原油を輸入し続けることで効果が減殺されている。
イランの核開発には北朝鮮が関わっているが、前述のように中国は北朝鮮擁護の姿勢を崩さず、結果として、イランの核開発を黙認し、助けている。中国こそ、民主化を求める“中東の春”を弾圧し、世界に核兵器を拡散させている元凶である。中国とその他の国々との対立は、第二の冷戦と呼ばれ始めたほど厳しい。