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2004.07.10 (土)

「 首相は単なる口舌の徒か 民営化問題取材のさなかに垣間見た小泉改革の正体 」

『週刊ダイヤモンド』    2004年7月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 550

考え方や立場が違っても、その主張を理解出来る人と出来ない人がいる。分岐点は、理屈や動機がわかるか否かであろう。小泉純一郎首相は、私にとってしばらく前までは、よく理解出来ない人物だった。しかし、今はかなり明確に理解できる。首相は単なる口舌の徒なのである。

首相の言動の意味がとらえにくかったのは、道路関係四公団の民営化問題の取材をする以前の時期だ。小泉政権の下で多くの改悪が進行した。国内政策では国立大学法人化、住民基本台帳ネットワーク、個人情報保護法など、対外政策では金正日総書記の長男・金正男不法入国事件、日中海域の中間線問題など、小泉政権が手を打ちえてこなかった事例は多い。

従来の、権益や呪縛の構図に沈んだ政治家とは異なり、手下も持たず群れない変人宰相だからこそ、首相は困難な課題をこなすことが出来るはずだと考えたのだが、そうではない。永田町に抵抗勢力はいても、国民が熱烈に支持しているのだから、改革は断行できるのに、と思いつつ、なぜ改革に突っ走らないのか、呪縛の網を破らないのかと、疑問を持ち続けた。

そして、2002年6月下旬に道路関係四公団民営化推進委員会が設置された。世間が注目した同委員会での審議の奇々怪々ぶりは、拙著『権力の道化』(新潮社)に詳述したので、ぜひ、そちらを読んでいただければと思う。『権力の道化』を執筆中には確認が取れず、本書のなかでは触れなかったことで、小泉改革のいわば正体を象徴する事例がある。今回、確認が取れたその一件こそ、首相が自身の言葉に責任を持たない口舌の徒であることを示している。

道路関係四公団の民営化案は2002年12月6日にまとめられた。だが、このときに今井敬・新日本製鐵会長(当時)が委員長を辞任したのは周知のとおりだ。政府に、委員会としての最終意見書を提出する時期になっても、委員会は今井氏が指示してつくらせた案と、東日本旅客鉄道(JR東日本)の松田昌士会長の案の二つに割れていた。今井案は国土交通省道路局の案であり、2003年12月に明らかにされた政府・与党案とほぼ同じ内容だ。一方の松田案は、真の民営化会社をつくることを目指したもので、新たな借金による新規道路の建設に厳しい歯止めをかけていた。そして、当時の新聞各紙は盛んに、両案について報じていた。

そんな状況下で、塩川正十郎財務大臣(当時)が12月2日に官邸を訪ね、「(今井・松田案の)両論併記はダメだ」と助言した。水と油のような案を並べたものなど、改革にはつながらないと忠告したのだ。

塩川大臣は続けて「松田案でいいじゃないか」と言った。大臣自身も、本当の民営化を実現させて、この改革を成功させたかったのだ。

小泉首相は応じた――「松田案はどんなものなのか」と。
首相は、意見書提出直前の12月2日の時点で、松田案を知らなかったのだ。塩川大臣は首相に配慮して、この一件を否定する。しかし、当時、大臣からこの件を直接聞いた人物はそのとおりだったと述べた。あまりの驚きに、この一件は詳細なメモとなって残されてもいる。

恐ろしいまでの首相の“無関心”ではないか。首相は確かに「民営化!」と叫んだ。しかし、その後の議論にはおよそ無関心だったということだ。でなければ、民営化推進委員会の意見書提出直前の時点で、あれほどメディアが取り上げた松田案を知らないはずがない。

首相はスローガンを叫んだ。国民受けした。その時点で首相の関心はほかに移っていたのだ。スローガンは支持を集める道具にすぎないのだろう。耐えがたいこの空疎さ。私はこのような人物に国政を任せる気にはなれないのだ。

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