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2004.01.15 (木)

「 民営化委員会の 『意外な背信者』 」

『週刊新潮』  2004年1月15日号
[特集] 民営化の「敵」は誰だ!

「いやいや。小泉総理のこの意欲には…。いやいや、たまりませんなぁ」

画面に広がった道路族のドン、自民党道路調査会長古賀誠氏の笑顔が全てを物語っていた。抑えきれない氏の笑いは、12月22日の政府・与党案「道路関係4公団民営化の基本的枠組み」がほぼ完璧に彼らの要求を満たしていたからだ。反対に民営化推進委員会の2002年12月の意見書の基本は悉く否定されていた。

政府・与党案では、4公団の道路資産と債務を保有・債務返済機構が持ち、機構から6つの会社が道路を借りて管理・料金徴収と道路建設を行う上下分離の形にし、機構の解散は45年後とされた。

対して、民営化委員会の意見書は10年を目処に会社は機構から資産を引きつぎ、機構は解散する内容だ。会社が国交省と道路族の傀儡におわらず自立するには、資産も負債も引き受け自前の経営を可能にすることが欠かせないとの認識だ。

委員会ではこの点をめぐって今井敬委員長の辞任に発展する烈しい議論が展開された。攻防の末に将来は上下一体の会社にするとの案に一昨年末、田中一昭委員長代理以下、猪瀬直樹、松田昌士、川本裕子、大宅映子各委員の5名が署名した。

意見書では、高速料金が安易に新しい高速道路建設に回されないように一応の歯止めもかけたが、今度の政府・与党案は、この点すら完全にひっくり返した。だからこそ、田中委員長代理も松田委員も憤って辞任、川本委員も今後委員会には出席しない旨、正式に表明する異常事態に陥ったのだ。

3委員の失望の色と対照的な古賀氏の満面の笑みは、まさに道路族と国土交通省の完全勝利の笑みだった。

だが、政府・与党案決定の日の夕方、日本テレビ『ニュースプラス1』に出演した猪瀬氏は全く異なる評価をする。「あれはそういうふうに笑って自分が勝った勝ったと言ってないと、古賀さん自身が追い詰められちゃうよね」と語るのだ。

しかし「追い詰められちゃう」のはだれか。当の猪瀬氏ではないのか。政府・与党案に69点をつけた氏は、自ら語るように、民営化委員でありながら他の委員のあずかり知らない所で、意見書を根本的に否定する政府案作成に次のような形で関わり、その決定案がいま厳しく批判されている。

氏は12月22日の政府・与党案決定直前の19日には、佐藤信秋国交省道路局長と近藤剛道路公団総裁を港区西麻布の自分の事務所に呼び出し、20日午前3時まで国交省とファックスをやりとりし、政府案の文言の修正をしたなどと報じられた。

猪瀬氏の表と裏の顔

猪瀬氏と当局のこの種の異常ともいえる密着の一端を示す場面に、私は偶然出くわしたことがある。11月28日正午、会食に出かけたときだ。エレベーター前に小柄な男性と長身の女性がいた。女性が何か一言言って男性が振り向いた。猪瀬氏だった。女性は氏の著書『道路の権力』にも度々登場する生島佳代子氏だ。
 互いに軽く会釈して乗り込んだエレベーター内で書類が詰め込まれたバッグが否応なく目についた。特に生島氏の鞄にはぎっしりと詰め込まれていてチャックが閉まらないのか、中のファイルが見えていた。道路公団関係の書類であろう。
 私たちは同じ階で降り、2人は私の目指す部屋の隣室に入った。食事が運ばれて来る度、個室の扉は開く。デザートが運ばれて来たとき、偶然にも隣室から石原伸晃国交大臣が出てきた。扉が開く度、隣室への人の出入りに注意をしていた私は、石原氏に軽く会釈した。成程、猪瀬、生島、石原の三者会談だったのだ。

だが、思いがけない人物がもう1人、同席していたことがわかった。デザートを終え、部屋を出たとき、道路公団総裁に就任して間もない近藤氏にバッタリ会ったのだ。三者会談ではなく四者会談だったわけだ。

この時近藤氏は「今日のことは他には言わないでほしい。自分は命がけで道路公団改革をやるから応援してほしい」と言った。私は承知した。今日、ここに初めて書いたのは、すでに大手全国紙がこの会談を報じているからである。

この日、四者が何を話し合ったかは知るべくもない。この時点で田中委員長代理はまだ近藤氏と会ってもいない。委員長代理を差し置いた猪瀬氏の食い込みは、彼らの緊密な連携を示唆するものだ。猪瀬氏は石原大臣や近藤総裁との“仲”を、テレビや雑誌で自ら紹介した。近藤氏が総裁を正式に受諾した直後の11月14日、石原大臣から電話が入り、「3人で協力し合って仲良くやっていきましょう」と話し合ったそうだ。

その後猪瀬氏は11月16日の『報道2001』に近藤氏と共に出演、偶然見かけた28日の四者の会食までにどれだけ接触があったかは知らないが、確実なのは呼びつければ猪瀬事務所に馳せ参じるところまで近藤総裁を自家薬籠中の物としたことだ。

政府・与党案の決定を受けて『ニュースプラス1』に出演した猪瀬氏は、政府・与党の決定案を「首相、道路族と妥協決着」(朝日)、「高速道『全線建設』温存」(毎日)などの見出しで報じた22日夕刊各紙について「書き方に問題がある」、「新聞が意味がよくわかってないところがある」、「メディアが報じる限界」などと批判した上で、述べた。

「僕ははっきり申し上げますけれども、民営化委員会を公開し、僕はそこでいろんな資料を出しました。(中略)それをメディアがどれだけ報じたかという問題なんです」

公開を言い出したのは、たしかに猪瀬氏である。だが、氏自身が公開の精神を否定したのではないか。田中氏が憤った。

「議論や決定のプロセスを国民に見せるための公開です。なのに、彼はフィクサーのように動いた。委員会を代表する立場ではないのに、国交省や族議員らと密室で交渉をした。隠れた動きをするのなら、公開の意味はない。猪瀬氏は表と裏の言動が違い過ぎます」

松田氏も憤る。
「民営化委員会の意見書は猪瀬さんも署名したものです。自ら署名した意見書と反対の結果につながる折衝をしたわけで、信義が問われます。委員としての資質に欠けます」

それでも猪瀬氏は、「委員会の意見を実現するために汗を流した」(23日『読売』)と主張し、テレビでは「僕」の出した資料や調査結果をメディアはどれだけ報じたのかと不満を述べる。結局、氏は自分への評価が大事なのだ。それが昂じて、物事を自分中心に組み立てていく。その一例を『道路の権力』から示す。

78ページから79ページ、「行革断行評議会」当時の猪瀬氏と峰久幸義道路局次長の応答が書かれている。同評議会は石原氏が行革担当相当時に作られた諮問委員会である。『道路の権力』では、猪瀬氏一人が鋭く道路局次長を問い詰めている。だが、01年に出版した氏の著書、『ラストチャンス』(光文社)の88ページから91ページをみると、道路局長を追及したのは、猪瀬氏と田中一昭氏の二人だったことがわかる。

歪曲と攻撃と自己擁護

 猪瀬氏は『道路の権力』で「歴史がどうつくられるか、たぶん、それはいかに記録されるかで左右される」と書いた。成程、そう考えたから、2年程前の著書には書いた田中氏の発言を、『道路の権力』で削除したのか。削除したあと、文章のつながりがよくなるように、原文にはなかった文言を自分の発言として新たに加えたのか。これでは捏造と言われても弁明出来まい。

この種の歪曲が『道路の権力』には随所に目立つ。他者への攻撃と「僕」自身への擁護は背中合わせだ。同書で興味深いのは、何が書かれているかと共に何が省かれているかである。

私はかつて『文藝春秋』で氏を批判し、日付を間違えるミスを犯した。氏は主としてそのことを批判し、肝心な問いには殆ど答えなかった。重要点から逃げ、一方で、ひたすら私のミスをふくらませ攻撃する手法は公正ではないと考えた。が、私はなによりも、自分のミスを恥じた。だから敢えて再反論はしなかった。けれど、この本を読んで考えは変わった。氏の手法はおかしい。ジャーナリズムの風上にも置けない、放置させたくないと思った。

氏が答えないことのひとつが、ドンブリ勘定の料金プール制だ。『週刊文春』2002年3月21日号で関空、成田、中部の空港をひとまとめにして上下分離する案を、氏は「あの道路公団にみられた悪評高く無責任なプール制と同じ考え方である」と批判した。

では、その同じ猪瀬氏が主張している道路4公団をひとまとめにして上下分離する案はなぜ良いのか。
「それは違うものだから、話が。結局、成田の出した収入と、それを持ってきて関空……埋めましょうという話だから」と氏は言う。

--プールでしょう。
「だから道路と別だからさ」

--道路と空港とどう違うのですか。
「全然違うの、話が。これはこれで別ものだと思って」

答えになっていない。だが氏は「おれをほんとに信用して」と言うのだ。

今回の政府・与党案でまさにこのプール制が温存された。先の『ニュースプラス1』で猪瀬氏は、政府・与党案では「分割によって、東名高速道路のお金を北海道で使うぞということは出来なくなったんです」と語った。これは明らかな間違いか、嘘である。

政府・与党案には、道路公団を分割して出来る3会社は、「基本的料金水準及び債務の返済期間を当該3社間で揃えるため、機構において高速道路に係る債務を一体として管理する」と書かれている。

つまり借金は機構がまとめて返済するため、どの会社のどの路線の借金も、収入も、同じ財布に入れられ、機構は巨大なドンブリとなる。東名のお金は北海道にも行くのである。
この無責任体制の中でいくら会社の自主権を確立すると言っても、機能しない。この改悪案の作成に手を貸した作家に、「おれをほんとに信用して」などと言われても、もはや信用出来ない。

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