「 凶悪犯罪増加への歯止めは政治責任 自民、民主の公約はそれに応えているか 」
『週刊ダイヤモンド』 2003年11月8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 517号
過日、ある地方都市に出かけたときのことだ。その町ではたまたま強盗事件が連続し、多額の金品が盗まれたばかりだった。
町の人びとが語って聞かせてくれたことには、犯人たちは朝一番の新幹線で東京からやって来て、あらかじめ目星をつけておいた資産家の家や、人目の少ないATM、スーパーマーケットなどを荒らし、さっと引き揚げていくというのだ。警察の目が厳しくなった都市部に較べて、人間同士が信頼し合い、そのぶん、まだのんびり暮らしている地方都市のほうが犯罪は容易だから、東京から新幹線で悪者がやって来るというのだ。強盗被害に遭った住人たちの証言から、犯人のなかに外国人がいることが確認されたこともあり、彼らは「一連の犯罪は外国人グループによるものか、日本人と外国人が組んで行なっているかだ」と説明した。
「新潮45」は11月号で、国際指名手配の犯人の手記を「中国人はここまでやる」とのタイトルで掲載、日本各地で起きた強盗事件について、具体的な犯行計画、下調べ、押し入り方、日本人被害者の様子などを生々しく報じた。中国人と組んだ日本人の犯人は、今も中国で逃避行を続けているのだそうだ。
その日本人犯人が語っている。
「日本にいる中国人が、なぜ殺しや強盗を行うかわかりますか? そこが日本だからですよ。中国国内では、そんな手荒なことはめったにしない」
日本で犯行を重ねる理由はこうだ。
「罪を犯した後に帰国し、中国のこの雑踏のなかに紛れ込んでしまえば、日本の警察にはまず捕まらない」
中国人を含めた外国人による犯罪に、日本政府は歯止めをかけられずにきた。直近の警察白書によると、今年上半期(1~6月)の犯罪件数は、前年同期比で20%強も増加している。検挙された外国人犯人は昨年度で1万6000人余に上るが、前述のように、凶悪事件を起こして逃げおおせている犯人も多い。
日本人による犯罪も増加しており、いまや、社会の治安を守ることは政治の責任だ。日本は世界でも稀な高齢化国家であり、お年寄り夫婦のみ、または独り住まいの人びとは急激に増えている。安心して暮らせる社会の再建は、都市部、地方にかかわりなく、国民の命と財産を守ることであり、人を信頼し合ってきた日本の文化文明を守ることだ。
この点について、各党の公約はどうなっているか。自民党は、5年で現在の治安の危機的状況を脱する、5年で不法滞在の外国人25万人を半減させる、警察官を増員し、3年で全国の空き交番をゼロにする、などとしている。
民主党は、48%に落ちた凶悪犯罪の検挙率を5年間で5年前の84%に回復させる、4年間で地方警察官を3万人以上増員する、凶悪犯罪に対する罪を重くするための刑法改正を行う、としている。具体的には、仮釈放のない「重無期刑」を創設するという。
無期懲役といわれると、一生、刑務所に拘束されて罪を償うのかと考えがちだが、そうではないのが現実だ。無期というのは期限が定められていないという意味で、殺人による無期は15年が一つの目安といわれる。しかし、模範的な囚人であれば、仮釈放され、15年が10年に、あるいはそれ以上短くなったりもする。愛する家族の命を奪われた被害者側からすれば釈然としないであろうし、人の命を奪って、それですむのかという想いも残る。
だからこそ、凶悪犯罪に対しては重い罰則を、という民主党の公約を評価したい。また、同公約を刑法全体の見直しにつなげて考えたい。酒気帯び運転が激減したのは、罰金が重くなり、運転者のみならず同乗者にも科せられることになったからだ。許しがたい罪には重刑罰を用意することが、犯罪防止にも役に立つのだ。