「 周辺国を力で影響下に置こうとする『中国革命』に対し日本に必要なこと 」
『週刊ダイヤモンド』 2010年12月11日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 866
選挙自体は普天間飛行場移設問題の解決にも、行き詰まった日米関係の解決にもならないが、まず、それを制さなければなにも始まらない。これが11月28日の沖縄県知事選挙だった。
結果は現職の仲井眞弘多(ひろかず)氏が約34万票で、対立候補の伊波洋一氏を4万票弱引き離して再選された。敗れた伊波氏は強硬な県外、国外移設派だ。一方、仲井眞氏は最後には県外移設を訴えたが、もともと辺野古への受け入れを了承していた。氏の県外移設の主張は、そう言わなければ敗北するという状況下で打ち出されたもので、氏の本意は最終的には受け入れにあると、希望的解釈を試みる人もいる。
だが、県内移設絶対反対の伊波氏は敗れたとはいえ、約30万票を獲得した。仲井眞氏の勝利で解決へのわずかな希望は残されたものの、最終的な解決の道はまったく見えないのだ。
仲井眞氏は選挙戦の最中には、「(県内移設への)僕の理解があっても、県民の理解が得られると思いますか」と反問し、当選直後には、「米軍は沖縄のためだけにいるのではない。日本全体、東アジアのための日米安保だ。移設先は日本全国で見出してほしい」と述べて、県内移設を望む民主党を突き放している。
仲井眞氏のこのような姿勢は、県民の意向であると同時に、民主党への反発でもあろう。日米安保、普天間移設という重要問題が焦点であるにも拘らず、民主党はこの選挙とまともに向き合わず、自主投票にした。公然と伊波氏を応援した民主党議員もいた。
仲井眞氏から見れば、そもそも問題を起こしたのは鳩山由紀夫前首相であり鳩山政権の副総理だった菅直人首相である。民主党が移転先としての辺野古を否定し、今、再び辺野古に移設させてほしいと言い始めた経緯を見れば、党を挙げて仲井眞氏を応援するのは当然だ。にも拘らず、県民世論の前に、やむなく県外移設を言い出した仲井眞氏を「政府の(県内移設という)方針と相いれない」として支援もしなかった。仲井眞氏が「民主党さん、もう勝手にどうぞ」という気持ちになるのも、わからないわけではない。
だが、政府も仲井眞氏も、沖縄と日本を取り巻く危機的状況を肝に銘ずるときである。沖縄の眼前の海で中国海軍の軍艦10隻が3日間の大規模訓練を行い、沖縄本島と宮古島のあいだを航行したのは今年4月。監視活動中の海上自衛隊に、彼らは挑発的異常接近を試み、こう発表したのではなかったか。「日本は中国海軍の動きに神経質過ぎる。こういうことは以降、常態化する。日本はそれに慣れるべきだ」。
沖縄の海で初めて日本に見せつけるように大艦隊を組んで演習したのも、直後にこの種の軍事行動は日常化すると宣言したのも、中国の戦略転換ゆえである。昨年七月、全世界の大使を一堂に集め、胡錦濤国家主席が訓示した。かつて鄧小平氏が述べた「韜光養晦(とうこうようかい)」(姿勢を低く保ち、強くなるまで待つ)、日本風にいえば「能ある鷹は爪を隠す」という方針から、「有所作為」(なすべきことはなす)という方針に転換する旨、宣言したのだ。
従来はむやみに力を前面に押し出すことは控えてきたが、これからは必要ならば、力を前面に押し出す、中国の手法で世界の新たな秩序をつくるということだ。米国気鋭の中国問題専門家、エリザベス・エコノミー氏はこれを「革命」と呼んだ。いまや、世界は「中国革命」の脅威に直面しているのだ。
中国革命は軍事的経済的拡張を伴いながら、周辺国を中国的手法でその影響下に置こうとする。日本周辺に高まる緊張のなかで、日本に必要なのは、祖国を自ら守る気概と、気概を担保する軍事力の整備だ。その重要な部分が日米安保である。民主党も仲井眞氏も、沖縄県民に向かってそのように論ずることでしか普天間問題を解決出来ないことを認識すべきである。