「 フセイン後の世界を睨み 米国との同盟を軸に日本は国内法整備を急げ 」
『週刊ダイヤモンド』 2003年4月26日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 491回
フセイン・イラク大統領派の最後の砦がバグダッド北部の町、ティクリットだといわれてきた。だが、その町でも「組織的、軍事的抵抗は予想していたよりも少なかった」(米中央軍ブルックス准将)。こうして米英軍は、イラク戦開始から26日目に全土を制圧した。
イラク戦後の世界の勢力図は、どのように変わっていくのか。今こそ世界地図を頭に描き、諸国の動きを分析することが重要だ。
まず、国連の再編が起こ得る。国連の中核である安全保障理事会で5常任理事国が、はっきりと米英、仏露、中国の3派に分かれたことの傷跡は深い。
就中(なかんずく)、米英と仏独の分離は、NATO(北大西洋条約機構)内で進行中の変化と重ねてみると、示唆に富んでいる。旧ソ連を敵としたNATOは、1989年のベルリンの壁の崩壊を機に、急速に性格を変えた。崩壊した東側陣営からポーランド、ハンガリー、チェコの加盟に始まり、バルト三国、ルーマニア、ブルガリアなどにも広がる勢いだ。東方への拡大が進むなかで、ソ連自身もオブザーバーとして受け入れられた。
米欧西側陣営の対ソ連軍事同盟から、米欧全体を統括する政治的意味合いの強い同盟へと変質したNATOではあるが、その柱は依然として、米国の軍事力に比重を置いた力による担保である。
ドイツには現在、NATO軍として米国の兵力5万人が駐留するが、今回のドイツの烈しい対米批判を機に、米国が兵を引き揚げ他国に移すこともあり得る。中東やアフガニスタンへの睨みなら、ドイツよりポーランドやルーマニアに駐留するほうが地の利もある。
となれば、欧州はラムズフェルド米国防長官の指摘した、古い欧州と新しい欧州に分離し、仏独は、古い欧州として急速に力を失っていく可能性がある。
もう一つ、予想すべき大きな変化は中東諸国のあり方だ。イラク国民の大多数は、明らかにサダム・フセイン政権の崩壊を歓迎している。今後、イラクに民主的な政権が樹立されれば、各国の投資もイラクに流れ込む。イラクは豊富な石油資源を活用して経済を立て直し、国民に安寧と経済的保障を与えることができる。
そのときに出現する豊かで自由なイラクを見たときに、周辺のアラブ諸国の国民が、自分たちの置かれた王制国家に疑問を抱いたとしても不思議ではない。最大の危機を迎えるのは、サウジアラビアを筆頭に、アラブの王制国家である。
サウジアラビアは1932年、初代国王イブン・サウドがアラビア半島を統一して建国した国だ。彼は傘下の諸部族融和のために各部族から一人ずつ計19人の妻を娶(めと)った。そのうちスデイリ家のハッサが最も愛され、7人の息子を生んだ。これがスデイリセブンと呼ばれる人びとで、現国王ファハドはその筆頭である。親米派の同国王はしかしすでに82歳、体調は万全ではない。皇太子アブドラ(79歳)はラシッド族出身の妻の息子でファハド国王の腹違いの弟。国王とは対立、反米でもある。
彼らサウジ国内の反米派が米国同時多発テロの背後にいたであろうことは、逮捕されたテロリスト19人のうち15人までがサウジ出身だったことからも推測される。ファンダメンタリストのテロと王政との関係の疑惑がより濃厚になれば、王政は土台から揺らぐ。
イラク情勢はイランをも刺激する。米国や西側との関係を深めたいハタミ政権は、シーア派の僧侶たちに縛られている。イラクの新国家建設は、ハタミ政権にこそ弾みをつけるだろう。
フセイン後の世界は、米国を軸に大地殻変動を起こすであろう。これを日本再生の機会とすべきだ。国連では対日敵国条項をはずし、常任理事国の一員としての資格を主張すべきときだ。米国との同盟を軸にアジアの安定を図り、自立国としての国内法整備を急げ。