「 民主党の公約破りは党の体質にかかわる傾向か 」
『週刊ダイヤモンド』 2010年7月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 845
民主党が昨年の衆議院議員選挙で掲げたマニフェスト(政権公約)を、目前に迫った参議院議員選挙用に大幅修正し、その相違を説明するための想定問答集を配布したそうだ。
「産経新聞」によると、想定問答集は昨年と今年の二つのマニフェストの相違の説明として、「09マニフェストは政権交代を主張する野党のマニフェストで、参院選マニフェストは政権を担当する与党のマニフェスト」だと説明し、「マニフェストは生き物であり、環境や状況の変化に応じて、柔軟に見直すことも重要だ」と主張するように指示しているという。
失礼ながら、これでは詐欺だろう。鳩山由紀夫前首相も菅直人現首相も、言ってきたこととしていることが違うと指摘されて、野党時代には情報がなかったから、わからなかったと言い訳してきた。
けれど、鳩山氏も菅氏も、与党経験者だ。菅氏は大臣まで経験した。加えて、両氏とも、いったい何十年間、政治をやってきたのか。そもそも政治家が公約を破るとき、まずすべきことは、なぜ公約を破らざるを得ないのかについて、きちんと説明することだ。民主党は公約の大幅修正というが、大幅な公約破りという表現が正しいのであり、公約破りは有権者に対する背信である。そのことを厳しく認識すれば、「生き物」だから変わることもあるなどとは、恥ずかしくて言えないはずだ。
それにしても菅氏をはじめ民主党の公約破りは個々の政策を超えた、体質にかかわる傾向か。典型が「脱官僚」である。あれほど、脱官僚依存と政治主導を主張してきた人々がいま、菅首相を筆頭に、自民党よりもさらに官僚に依存しているのである。たとえば菅首相その人も財務官僚の教えに完璧に従っているのが現実で、消費税増税論もその一端だと見てよいだろう。
菅氏は経済や財政についての理解を欠いたまま、増税が必要だという財務官僚の説得に基づいて、選挙戦の先頭に立ち国民に新たな公約を説いている。首相は6月30日に、まず青森市で、年収が「200万円とか300万円の人」には消費税分をそっくり還付すると言った。次に秋田市で「300万円とか350万円の人」と言い、山形市では「300万円とか400万円の人」へと、目まぐるしく変化した。いずれも同じ日の発言である。
課税最低基準を、同じ日に、次々に変えたことは、事前の調査分析や見通しに基づいて提案しているのではないということだ。ありていにいえば、口から出任せ状態で国民に語りかけているのである。本当に無責任な人だ。
年収350万円以下は全世帯の4割に相当する。行政のムダを排除し、効率を高めるといいながら、首相の提案は事務手続き、つまり人手、時間、おカネのムダの大幅な増加につながる。首相にはそのことがわかっているのだろうか。この定見のなさこそが民主党の公約破りの主要因であることを、投票を目前にした有権者としては、知っておきたいものだ。
加えて民主党は、そもそも公約を国民への誓約とは考えていないのである。神奈川県選出の千葉景子法相は、夫婦・親子別姓法案や悪名高い人権侵害救済機関設置法案(人権擁護法案)が参院選マニフェストに記載されていない件に関連して語った。
「マニフェストに載っていない、あるいはテーマになっていないことが(法案推進に関して)特段問題になることはない」
夫婦・親子別姓法案は衆院選のマニフェストにもなかったが、308議席を取った途端、民主党はその実現に向けて動き出した。今回、またもやマニフェストに載せず、それでも同法案を推進すると、千葉氏は言うのだ。
公約を守る、守らない以前に、民主党は数の力さえあれば公約を無視できると考えているのである。