「 外洋海軍力を誇示する中国軍 日本は国防計画の見直しが急務 」
『週刊ダイヤモンド』 2010年4月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 835
いよいよここまで来たか。外洋海軍としての力を備えた中国が、太平洋およびインド洋の地政学を根本から塗り替えていく。日本は、中国の意向を常に気にして生きていかなければならない状況に陥るかもしれない。そんな思いで聞いたのが、中国海軍が10隻の艦隊を組んで沖縄本島と宮古島のあいだを通過したニュースだった。
むろん、同海域は公海で、国旗を掲げての通過は国際法上問題はない。だからといって、日本のこの静かな反応、否、むしろ、無反応というべき現実は何なのだろうか。とりわけ現地沖縄の状況には理解しがたいものがある。
沖縄のメディアがいま、熱心に報じているのは今月25日に予定されている普天間飛行場の県外移転を求める県民決起大会に向けての準備活動である。米軍基地はともかくも県外に移すべきだとのさまざまなインタビュー記事や論説などを掲載する一方で、中国海軍がこれまでにない大規模艦隊を組んで沖縄の鼻先を、堂々と通っていったことを脅威ととらえ、その意味や意図について警鐘を鳴らす報道はほとんどない。どの国が日本と価値観を共有し、どの国がまったく共有していないのか、どの国が日本の同盟国で、どの国が脅威なのかを識別しようとしないのである。むしろ、正しく識別し認識することを、沖縄のメディアは妨げている。
中国艦隊は沖縄本島の先を通過する前、ロシアから購入したソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦など五隻を使って東シナ海の中部海域で艦載ヘリの飛行訓練などを実施した。完全な対戦型の訓練である。国際法上問題なしとはいえ、日本近海での軍事活動に海上自衛隊は護衛艦2隻とP3Cを派遣し、監視体制を敷いた。当然の反応である。
ところが、中国海軍のヘリが思いがけない行動に出た。低空飛行で海自の護衛艦に異常接近したのだ。その距離、わずか60メートル、高さは30メートルで、護衛艦のマスト近くに迫った。政府は、これを危険であるとして中国政府に事実関係の確認を申し入れた。
なんと侮られていることか。それにしても、この侮りに直面してもなお、日本国民は怒りもしない。前述のように現場海域となった沖縄では、普天間から米軍を追い払い、日米安保条約反対運動に血道を上げることはあっても、中国への警戒感を高めることはない。
そんな日本の現状に中国はさぞかし満足しているだろう。日米安保条約が揺らげば、中国は東シナ海のガス田開発に踏み切ると考えるのが妥当だが、沖縄の人びとも、そして多くの日本人も、そのような危惧を抱く様子はないのである。
今回の中国艦隊の航行と、これまでの航行との最大の相違はその規模と編成にある。規模の相違は軍事力の相違である。中国海軍は2008年11月、09年6月、今年3月に、4~6隻の編成で今回と同じ海域を通過した。今回は10隻で、完全な艦隊としての航行である。艦隊には補給艦も含まれている。
これまで中国海軍は洋上補給をする能力はないといわれてきた。だが、今回洋上補給をしている様子が確認されている。洋上補給が可能になったいま、中国艦隊は長期にわたって、外洋にとどまることが出来るわけだ。
中国が海洋進出を目指し始めたのは1970年代だ。当時の中国は貧しくまともな艦船の保有は望むべくもなかった。そこで彼らは前代未聞の大規模ODAを日本から獲得し、軍用にもなるインフラを整備した。経済力をつけるに従い、すさまじい軍拡を進め、世界第二位の軍事大国となった。かたや日本は防衛予算を削り続けた。民主党は事業仕分けで本来増額すべき防衛予算をさらに削り、自衛隊員数も削った。
このままでは確実に、日本は中国への従属を迫られる状況に追い込まれる。いま一度、立ち止まって、日本の国防計画を考え直すべきだ。