「 総務省の主張とは裏腹に『住基ネット』施行は法律違反 」
『週刊ダイヤモンド』 2002年7月20日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 453回
日本弁護士連合会(日弁連)が全国の地方自治体を対象に、住民基本台帳ネットワークに関して調査を実施した。昨年末に続く2度目の調査だが、興味深い結果が出ている。
住基ネットはこのままいけば、ひと月もしないで施行される国民総背番号制のことである。国民全員に11ケタの番号を付け、その番号で本人確認ができるため、住民票の写しを取る手間が省かれる、これほどの便利さはないと総務省は喧伝する。また、同システムなしにはeジャパンは成立しないとも、彼らは強調する。
片山総務大臣は「住基ネットは地方自治体が望んでいる。地方自治体の要望を受けて実施しなければならない」と語ったが、日弁連の調査に回答率46%で1490の地方自治体が寄せた声は、片山大臣の声とは裏腹である。
住基ネットを費用対効果の観点から「合理的」と答えた自治体はわずか7%、「不合理」「どちらとも言えない」が、各36%と51%に達した。
さらに「どちらとも言えない」と答えた自治体の意見表明の欄には、住基ネットは住民や地方自治体にはメリットはなく、あるのは国に対してばかりだという意見も、書かれていた。
国民の個人情報取扱いのセキュリティに関しては、これまた寒心の限りである。システム上の問題点を「自力で解決した」自治体はわずか1.5%、半数以上の56.4%が、民間業者に委託しているのだ。総務省は、その外郭団体である地方自治情報センターを中心に、システムは順調に構築されていると強調するが、現場の実情は、説明とは正反対である。地方自治情報センターは相次ぐ問題の発生に対処しきれておらず、地方自治体の問合せに、1週間も2週間も回答できずにいる、あるいは、梨のつぶてで終わっているケースさえある。
住基ネットを実質的に担う地方自治体の担当職員で、コンピュータに精通しているのは、わずか16%。大多数がコンピュータを操れず、総務省傘下の地方自治情報センターも指導に手が回らない。それで、69.2%の自治体が、住基ネットの管理を民間業者に頼っているのだ。大手の民間業者の下請、孫請、ひ孫請業者の何千という人びとの手に、国民の全情報が托されていきつつあるが、これほど無防備な仕組みをつくってよいはずがない。
それでも、住基ネットを予定どおり8月5日から稼働させるべき、と答えた自治体は20%にすぎない。14%が「延期が望ましい」、60%が「どちらとも言えない」と答えた。60%の自治体の本音は「延期してほしい」にあると思われる。なぜなら、総務省への正面からの反対は、地方自治体には大変なことで、容易にはできないと、「どちらとも言えない」と答えた自治体の職員が、言うのであるから。
このような状況のなか、私が代表を務める「国民共通番号制に反対する会」の主催で、7月4日、与野党の議員に住基ネット法を凍結する要請の会を開いた。与野党から代理を入れて69人の国会議員が出席した。私たちの会は国会議員の過半数の賛成を得て、住基ネットを3年間凍結したいと考えているが、さまざまな反応が出ている。その一つは、たとえ凍結法案が提出されても、党議拘束をかけて賛成させないようにしてしまうというものだ。
だが、この考え自体がおかしい。新しくつくり上げようとする国民全員の個人情報に深くかかわるシステムに重大な問題があると分かったとき、党議拘束をかけて縛るのは、自由な議論を許さない非民主的な手法ではないか。第一、住基ネットの前提である個人情報保護法の成立なしに住基ネットを施行するのは、法律違反である。
政府自らが法を破るようなことは、絶対にしてはならないのだ。