「 首相を追い詰める名護市長選挙 」
『週刊新潮』 2010年2月4日号
日本ルネッサンス 第397回
1月24日、米軍普天間飛行場の移設問題を最大の争点とする沖縄県名護市市長選挙で元市教育長の稲嶺進氏(64)が当選した。氏の公約は辺野古の海に基地は造らせないというもので、日米の長年の合意である辺野古への移設は非常に困難となった。
沖縄に関する特別行動委員会(SACO)の最終報告書には、沖縄県米軍区域の総面積の21%にあたる5,002ヘクタールの返還が普天間移設の柱として明記されている。それに伴って訓練場や通信所を県内の他施設に統合し、パラシュート降下訓練は伊江島に、実弾砲兵射撃訓練は本土に、12機のハーキュリーズ航空機は岩国飛行場に移すなどが決められている。すでに準備は進んでおり、岩国のハリアー航空機14機は米国に移駐済みだ。
辺野古移設が頓挫すれば、これらすべての移設も白紙に戻されかねない。政府合意の白紙撤回は異常事態であり、米国の信頼を著しく損なう。5月には移設先を決めるとの鳩山由紀夫首相の言葉が実現されない場合、責任は極めて重大である。
首相も岡田克也外相も、複雑な歴史を背負った沖縄で、県知事や名護市長が辺野古移転計画を容認するまでにどれほどのハードルを越えなければならなかったか、その苦労を想像出来なかったのだろう。だからこそ、簡単に国外や県外移設を公約し、自縄自縛に陥った。
名護市長選挙の時期、私は沖縄八重山諸島のなかでも、最も革新勢力が強く先鋭的な反米反自衛隊の地という評判がある石垣島にいた。同島では2月28日に市長選挙がある。5選を目指すのが大浜長照(ながてる)現市長だ。氏の特徴はなんといっても軍事的な事柄への徹底した反対姿勢である。
氏と、米海軍との間に起きた或る出来事を見てみる。私はこれを、便宜的に「非常事態宣言事件」と呼ぶ。
デモ隊が港のゲートを封鎖
発端は在日米海軍が09年4月1日から3日まで、掃海艦2隻を石垣港に寄港させたいと通知したことだった。米艦船の寄港は日米地位協定で認められているのだが、島では反対の声が起きた。八重山地区の労働組合協議会、九条の会やえやま、いしがき女性九条の会など8団体15人が会見し、「身の毛のよだつ思い」「軍服を着て、市街地を歩くことは許さない」などと非難した。
大浜市長は接岸可能な岸壁はクルーズ船などの予約で一杯で、掃海艦の接岸は物理的に不可能だとして拒否回答を送った。さらに「観光客に無用の不安と混乱を招く」「子どもたちに強い恐怖を与える」「市民感情に配慮を欠いた一方的な押しつけ」「寄港は平和行政と相いれず、内政干渉」だとして、強く反対した。
これに対し3月17日、米軍側は寄港予定を2日延期し、民間の船が出港する後の3日に入港したいと改めて通知した。
地元紙の「八重山毎日」は翌3月18日、「米艦船は来ないで!」との見出しで社説を掲げ、米艦船は「招かざる迷惑な客」だ、米艦船の寄港を「果たして台湾や中国などがどう受け止めるか」と問うた。
石垣島の鼻先の日本の領海を中国の潜水艦が侵犯し、逃げ去ったのは04年11月だった。中国は台湾及び沖縄諸島を照準にとらえた短距離ミサイルを1,150基も配備済みだ(08年9月時点)。しかも、毎年約100基ずつ、増やしている。先の社説子は、こうしたことについてどう考えるのだろうか。沖縄(日本)への軍事的脅威を構築済みで、それをさらに拡大する中国に、的外れの配慮を示し、一方で同盟国の掃海艦という比較的小さな艦船の入港の「危険」を煽りたてる。中国にどう思われるかを心配するより、中国の短距離ミサイルや潜水艦の脅威こそを心配しなければならないはずだ。が、国際情勢への目配りを欠く社説子は「米軍であれ、自衛隊であれ軍隊と名のつくものがこの八重山に出入りすることを一切お断りしたい」と断じるのだ。
さらに驚くべき反応が、今度は大浜市長から起きた。米艦船の寄港予定日近くの4月1日、市長は「寄港した場合は非常事態宣言をして対応せざるを得ない」と述べたのだ。同盟相手が、「乗組員の休養と地元との交流」を求めたのに、市長は極論で息巻いたわけだ。
当時の在沖縄米総領事のケビン・メア氏は、「米海軍の沖縄での活動自体が日米安保の下で日本を守る責任を果たす用意が、米国にあると示すことになる。石垣港は南の海路の中心にあり、寄港の経験を通してこの海域を知っておく必要がある」と記者会見で述べたが正論であろう。
このような経緯を経て、掃海艦2隻は4月3日午前9時前後に石垣港に入港、接岸した。待ち受けていたメア総領事は艦船に移り、艦長以下乗組員を歓迎した。その後、メア総領事と2人の艦長ら幹部が港内から市街地に出ようとしたときだ。反対派が組織した約300人のデモ隊が港のゲートを封鎖してメア氏ら全員を7時間以上封じ込めた。
空疎な友愛精神
地元紙「琉球新報」は、「兵士入れるな」「市民抵抗にらみ合い」などの見出しでこれを報じた。記事にはデモに駆けつけた8歳の小学3年生の、「戦争が起きそうな気持ちになる」との言葉を引用している。相も変わらぬ陳腐な報道である。
沖縄県警は、しかし、港を実力封鎖した人々を解散させるところまでは動かず、メア総領事らに裏口からの脱出を提案したという。メア氏は、米国の代表として裏口からの脱出は断固拒否すると断り、車を降りて、徒歩でデモ隊の真ん中を突っ切った。
石垣島にも、無論、日米安保を高く評価し、同盟の絆を深め、島に自衛隊を誘致したいと考える人々は存在する。だが、掃海艦の寄港に非常事態宣言を口にするなど、常軌を逸していると言われても仕方がない人物が5選を目指すのが「革新の島」石垣の実態である。それは沖縄全土に共通する政治風土でもある。
反米軍、反自衛隊の気風の強いこの沖縄で、普天間の移設先になることを名護市が受入れたのは実に大きな決断だった。それを空疎な友愛精神で反転させたのが鳩山首相だ。
閣僚らはすでに、何を優先すべきかに気付いている。選挙結果について北澤俊美防衛大臣は「沖縄の皆さんに、政府が本来決めるべき選択を過重に任せる風潮は良くない」と語り、平野博文官房長官は「一つの民意の答えとしてはあるだろうが、検討していく上では、(それを)斟酌しなければいけないという理由はない」と語った。他方、首相も、「選挙の結果は名護市民の一つの民意の表れ」「ゼロベースで、5月末までに結論を出す」と語った。余りに軽い首相の言葉だけに意味は不明だが、1,600票弱の差で導き出された選挙の結果と日米安保体制と、どちらが日本の国益にとってより重要なのかを、未だ判断出来ないのではないか。
国旗、国歌に対する礼儀、伝統を守ること…
かなり昔の話になるが、70年代後半に米国で1年間生活したことがある。
米国では、集会やらイベントなどがあると、開会の前に参加者全員が起立し、国旗に向き、胸に手を当てて、
I pledge allegiance
to the flag of the United States of America…(略)
と宣誓する。
国旗に対し、忠誠を誓うという意味だ。
NFLの頂上決戦であるスーパーボウルは、本日、第44回大会が行われた。
遡ること20年ほど前の湾岸戦争の最中、第2…
トラックバック by 私的憂国の書 — 2010年02月11日 01:21