「 善意で日本の力を殺ぐのか、民主党 」
『週刊新潮』 2009年11月19日号
日本ルネッサンス 第第387回
先週の小欄でも詳述したが、鳩山由紀夫首相は事前に内容を詰めることもなくCO2排出を1990年比で2020年までに25%削減するという、空前の政策を国連で発表した。
同案作成の中心人物だった参議院議員の福山哲郎外務副大臣は「Voice」12月号に、「政権交代によって、政策決定の在り方も180度変わった」として、以下のように書いた。
「もはや、『やれるか、やれないか』『やれるものをやろう』で政策を決めるのではない。『これをやる』という政治の意思を示し、そのために行ないうる政策を総動員する方向へと、舵は切られたのだ」
福山氏は、麻生太郎前首相の打ち出した05年比15%削減案は「あまりに中途半端」「説得力がない」「中国やインドなどに、新しい枠組みに参加しない理由を与えているも同じ」と手厳しいが、果たしてそうか。
たしかに民主党の25%削減案は「中途半端」ではない。異常なほど突出している。だが、同案は麻生案より余程「説得力がない」。民主党自身、25%の根拠もその実現策も未だ示し得ていない。また、福山氏は麻生案では中国やインドの参加が得られないと言うが、鳩山首相が国連で衝撃の25%目標を打ち上げても、米中もインドも乗ってこなかった。逆に、先進国に40%削減を求めてきた中国は日本に倣って削減にコミットするより、さらなる援助を求めた。
私も関わっているシンクタンク「国家基本問題研究所」で10月20日、民主党案についての研究会を開いた。同案の日本経済への影響について、経団連環境安全委員会委員長の坂根正弘氏は語った。
「日本は世界のGDPの8%を占める一方、CO2排出では4%です。どの業界も多分、(省エネにおいては)自分たちが世界一だと自負している。もし世界一でないなら、潔くペナルティを払うと、皆、言うと思います」
月餅を降らせているのは日本
世界一の自負があればこそ、従来の自民党政府の、そしてこれからの民主党政府の、日本がCO2削減目標値を達成出来ない場合に払うペナルティには納得いかないというのだ。
「先に経団連は05年比4%削減案を発表して批判されました。この数字は、欧米諸国が13乃至14%削減案を出し、それに必要な費用と同じ削減費用を日本がかけるとしたら、4%に相当するということで打ち出したのです」
坂根氏が語ったのは限界削減費用、追加的にCO2を1トン削るのに必要な費用のことだ。省エネが進んでいる企業や国ほど同費用は高くなるのであり、現在、限界削減費用は、全世界で日本が断トツに高い。
21世紀政策研究所が興味深い試算を行った。限界削減費用の算出には、削減目標値、基準年などの要素が関ってくるが、各国が掲げる目標値を基に計算すると、1トンのCO2を削減するのに、EUは54ドルかかる。カナダ65ドル、豪州25ドル、米国16~30ドルに対して、麻生政権の05年比15%削減なら、150ドルだった。鳩山首相の90年比25%なら、なんと、621ドル~1,071ドルに跳ね上がる。
日本は京都議定書で公約した6%削減を国内では達成出来ず、排出権取引で排出枠を海外から購入した。つまり、日本の企業が外国企業に最新鋭の技術を提供し、そこで生じた排出量の減少分をその外国企業なり政府が排出権として確保し、それを日本政府が税金で購入したのだ。
自民党政権は06~08年の3年間で26件の排出権取引を実施、内19件が中国相手だった。日本の技術による設備更新と金銭的メリットを当然の権利であるが如く享受するのが、中国にとって通常のパターンになっているのだ。待っていれば月餅が空から降ってくると中国人はほほ笑む。月餅を降らせているのは日本である。
排出権を購入してきたのは政府だけではない。経済界も同様だ。これまでに電力、鉄鋼業界を中心に日本の産業界は京都議定書の6%達成のために排出枠を購入してきた。支払額は1兆円に達すると経団連はいう。
「我々には京都議定書のトラウマがあります。結局、米国も中国も参加せず、EUは自分たちに有利な1990年が基準だと主張し、日本はこの日本に不利な条件を呑んだ。結果、世界一の燃費効率を血の滲む努力で達成した我々が非難される事態となった。なぜこうなるのか……。鳩山さんは高い目標を掲げて日本が世界をリードすると仰る。全世界の4割強のCO2を排出する米中は本当にその高い目標についてくるのか。私は本当に心配しています」
福山氏は前述の記事で、「『各国が賞賛』といった評価を受けたのは今回の鳩山発言が初めてである」と胸を張った。確かに各国は賞賛した。だが、そこには人類社会の理想を共に目指そうとの前向きの賞賛とともに、「もっと大量の月餅を日本が世界にバラ撒くことになる」と、ほくそ笑みつつ捧げた賞賛もあることを知らねばならない。そこが解らなければ、あまりにも外交音痴である。
日本が一人負けをする
坂根氏は鳩山首相の「政治主導」で、このままCO2削減が実施されれば、鉄鋼のような基幹産業は日本に立地出来なくなると警告する。
「鉄や化学は生産段階のCO2比率が大きい割に、対価がもらいにくい。新日鐵がもの凄いコストをかけてCO2を減らして作った鉄でも、鉄は鉄です。小松やトヨタが高く買うかと言えば、そうはならず、安い外国の鉄を買うでしょう。結果、日本の鉄鋼産業は成り立ちにくくなります。
一方、鉄を買った製造業、たとえば私の会社である小松製作所の場合、一台の建設機械によって生ずるCO2のうち、鉄やゴムなどの素材段階で4%、会社で機械を製造するのに4%、残りの92%は機械のユーザーが燃料などで排出します。したがって、素材や製造段階の4%ずつを締め上げて削るよりも、92%分を如何に効率よく削るかという発想が大事です」
こう言うと、産業界は抵抗勢力のように非難されるが、決してそうではないと氏は強調する。産業界の提案は産業毎のモデル作りである。
「産業毎に最新モデルを出して、情報開示をし、各国のレベルをそこまで上げる。相当難しい課題ですが、我々は我々の技術への正当な評価を得たうえでそれらを提供し、全世界のCO2を削減しようと考え、ある時期まで、極めて真面目にこのセクター別アプローチで世界を引っ張ってきた。ところが、ここにきて鳩山さんの政治主導で完全に違う方向に向かってしまった。非常に残念です」
民主党案の25%削減で日本が一人負けをする自縄自縛に陥りかねない。日本の技術を生かしてビジネスチャンスにつなげるためにも、民主党は世界への愛に加えて、もっと日本の国益を考えよ。真面目に産業界の主張にも耳を傾けることだ。
国慶節に思う。(30)…
(★)
2005年から2020年まで年5%でGDPが成長すると、2020年のGDPは約2倍に増えている事になる。仮に2005年のCO2排出量に対して40%減分(X)だけ2020年も削減する、と言う意味ならば、2020年も同じ比率で排出されたCO2からX分だけ削減に努力する、と解釈すると、削減後のCO2は2005年分より確実に、6、7割増えている事になる。しかし中国は8%成長だと言っているので、5%を8%に置き換えるとGDPは3倍となり、同じくCO2も3倍に増える事になる。これから40~45%を減らし…
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国慶節に思う。(30)…
(★)2005年から2020年まで年5%でGDPが成長すると、2020年のGDP…
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