「 『小泉総裁』では日本は衰退する 」
『週刊新潮』 2025年9月25日号
日本ルネッサンス 第1164回
自民党の新総裁選びが始まった。候補者は5人、党所属国会議員295名の票と党員の295票、計590票を争う。第一回投票で過半数を制する候補者がいなければ、上位2人が決選投票に臨む。
真っ先に立候補を宣言した茂木敏充氏以下、小林鷹之、林芳正、小泉進次郎、高市早苗各氏の内、茂木、小林、林の三氏は第一回投票でレースを降りて、決選は高市、小泉両氏の争いとなる。
各人各社は票読みに余念がないが、どう見てもフェアではないメディアの姿勢が気になる。とりわけテレビ、新聞の論調は小泉氏に優しく高市氏に厳しい。各媒体に登場するコメンテーターも同様である。
ひとつの事例が靖国神社参拝についてである。高名な政治評論家らが、高市氏が総裁、総理になれば靖国神社に参拝するので、日中関係に軋轢が生じ、外交問題になると論難する。総理は高市氏ではダメだと言っているのである。テレビでの発言は世論に影響を与える。高市氏に不利な状況を生み出す狙いは明らかだ。
この種の決めつけは公平ではなく、後述するように国益をも損なう。確かに高市氏は毎年の春秋の例大祭や8月15日の参拝などを欠かさない。しかし終戦の日については小泉氏も同様だ。参拝の折り、小泉氏は高市氏同様、テレビ局の取材に応じ、祖国に殉じた英霊に尊崇の念を表し、感謝を捧げるのは当然だと語っている。
小泉氏のこの姿勢は、氏の父、純一郎氏のそれと較べればはるかにしっかりしている。純一郎氏は首相だった期間、年に一度靖国神社を参拝し、それ故に日中関係は冷えきった。だが、中国が日本国の首相に日本国内の特定の場所に行ってはならないと指示することに反発して、純一郎氏は参拝を続けた。
首相在任中ずっと参拝したからと言って、純一郎氏の参拝に英霊への感謝の気持ちや尊崇の心がこもっていたかと言えば、私は必ずしもそうは思わない。理由のひとつは、純一郎氏は首相就任以前、一度も靖国神社に参拝したことはなく、首相辞任後もまた一度も参拝していないことだ。中国に意地を見せるための参拝に較べれば、毎年、必ず参拝する進次郎氏の方が、その父よりはるかに信頼できる。氏の参拝の心は高市氏同様、本物だと私は感じている。
靖国参拝に関して、両氏は同じように真摯であるが、テレビ、新聞、政治評論家の多くは小泉、高市両氏に二重基準を適用するのだ。小泉氏の参拝は日中関係悪化の重大要素としてはとらえず、高市氏の参拝のみを問題視しているのが、二重基準の第一だ。「首相になっても参拝するか」とメディアは高市氏に問うた。他方、小泉氏は同様の問いに明言を避けている。
ここで日本人としてどうしても考えなければならないことがある。靖国神社への首相参拝は間違ったことなのか、と。中国を恐れる余り、祖国に殉じた英霊に尊崇の念を捧げ、頭(こうべ)を垂れるのを許さないことが正しいことなのか。
反日歴史キャンペーン
そもそも、中国も韓国も当初靖国神社参拝を問題視していなかった。それを政治、外交上の問題に仕立てるべく、朝日や毎日を軸とするわが国のリベラルメディアが反参拝のキャンペーンを張った。日本の左翼系メディアが靖国神社参拝問題の元凶であることを日本国民は記憶に刻み込んでおくべきだ。
オールドメディアは高市氏の回答が「イエス」であることを予測して首相としての参拝を問うのであろう。高市氏に言わせて論難するのだ。
ではオールドメディアが小泉氏に期待するのは何か。氏に高市氏と同じ問いを発したと仮定する。小泉氏が「首相になれば参拝しない」と言えば彼らは気が済むのか。が、そんな回答はわが国の異常さを拡大し、国益を損ねると共に政治家としての小泉氏の信頼も失墜させる。氏の選挙区には米軍、自衛隊関連の基地や施設が多く存在する。日米両国の軍人も多い。首相になった暁には参拝しないとは、小泉氏はとても言いにくいだろう。
万が一、高市氏同様、必ず参拝すると小泉氏も答えたとして、テレビや新聞、政治評論家はどう論評するだろうか。高市氏の場合と同じく批判の対象にするのか。そんな事態を避けるために、敢えて小泉氏は問い詰めないのではないか。
現在中国は反日歴史キャンペーンの真っ只中だ。虚偽に満ちた「南京大虐殺」の映画などが中国全土で上映されている。朝日や毎日は靖国神社参拝を問題視することで、日本を貶める中国共産党の虚構の反日歴史戦を支持しているのである。
オールドメディアの不公平
オールドメディアの不公平を示すもうひとつの事象は、本来指摘すべき小泉氏の失政について報じないことだ。典型例は小泉氏が再生エネルギー重視でわが国の経済、環境を大きく損ねていることだ。
今年7月15日、日産自動車は神奈川県横須賀市の追浜(おっぱま)工場での生産を2027年度末に終了すると発表した。追浜は日産が世界でいち早く電気自動車(EV)を量産し始めた拠点で、小泉氏の選挙区にある。
日産はEV生産の主力、追浜工場だけでなく子会社の日産車体の湘南工場も、さらに海外のメキシコ、インドなど4か国で5つの工場を閉鎖するという。多くの従業員が解雇されかねない。追浜では昨年10月末時点で3900人が働いていることから、小泉氏の足下でも深刻な雇用問題が発生することになる。
なぜ日産はこんな危機に陥ったのか。要因は種々あるはずだが、主な原因は日産が再生エネルギーを重視し、社運をかけて電気自動車に舵を切ったことだ。日産の危機を招いた要因を突き詰めていけば小泉氏主導のクリーンエネルギー政策に行き着く。つまり日産の経営戦略の間違いとその間違いを後押ししてやまない小泉氏の誤てるエネルギー政策ゆえに、日産の未来は閉ざされつつあるということだ。
小泉氏は太陽光及び風力発電など「クリーン重視」のエネルギー政策を基盤にわが国の成長戦略を推進すると説く。原子力発電はなるべく遠ざけるということでもある。
わが国が力を入れている半導体産業やデータセンターの設置などは膨大なエネルギーを要する。それを再生エネルギーのみで賄うことは不可能だ。しかし、全体像を見る能力も科学的、論理的思考も欠落している小泉氏にはそのことが理解できず、結果としてわが国の産業をつぶしていくのだ。
氏は環境大臣時代、再生エネルギー推進の一環として釧路湿原の太陽光パネルの設置も許可した。そして今、釧路湿原の豊かで貴重な自然が破壊され続けている。小泉氏のエネルギー政策は国土をも荒廃させるのである。
総裁選挙の重要争点として、小泉氏のとんでもないエネルギー政策を論ずる責任がメディアにはあろう。
