「 テロ勢力ハマスの蛮行を許すな 」
『週刊新潮』 2023年10月26日号
日本ルネッサンス 第1070回
10月7日、パレスチナ自治区ガザを支配する武装勢力、ハマスのイスラエル攻撃から始まった戦争は、息を呑む速さで戦況が悪化しつつある。
16日現在、死者は双方で3900人以上に上り、イスラエル軍によるガザ地上戦が迫る。地上戦となればイスラエル軍はガザの民家、一軒一軒をしらみつぶしに点検するだろう。間違いなく残酷な戦いになり、民間人の犠牲もさらにふえる。
今回、ハマスは突如として3000発のミサイルをイスラエルに撃ち込んだ。テロリスト1500人が侵入して1300人以上を殺害、200人ともいわれる人質を連行した。そのときの蛮行―女性たちへのレイプ、赤ちゃんやお年寄りの殺害、武器もない成年男性たちの惨殺―そうした映像がネットに出たという。
この点について米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)に12日、ウォルター・ブロック、アラン・フテルマン両氏が「道徳的義務としてのハマスの破滅」と題して寄稿した。
「イスラエルは国家戦略として、イスラエル国民に対する敵の蛮行を見せないできた。犠牲者の尊厳を守り、国民の士気沮喪(そそう)を防ぐためだ。(中略)しかし今、残虐行為の映像はハマスが拡散している。彼らはそれが自らの強さとイスラエルの弱さを示すと考えるからだ」
両氏はさらに強調する。イスラエルは2005年にガザからイスラエル人を退去させて、そこにパレスチナ人が国家を築けるようにした。しかしパレスチナ人はハマスの支配を許した。一方、イスラエルに敵対する勢力はパレスチナ国家を是としていない。彼らが望むのはユダヤ人のジェノサイドだ。従ってナチ同然のハマスは解体され滅びるべきだ、というのが両氏の主張である。
イスラエルのネタニヤフ首相はハマスの支配するパレスチナの問題についてこれまで「神経に障るが何とか許容できる」という考えを示していた。しかし10・7以降、ハマスの徹底排除へと、大きく変わった。
イランの軍事介入
イスラエル政府はガザの住民に避難勧告を行い、ハマスのリーダー全員の殺害とハマス解体を宣言した。ネタニヤフ氏はハマスとISISは同類だと断じ、ISISが破滅に追い込まれたようにハマスも同様の運命に追い込むと語った。
それにしてもイスラエルはなぜハマスの攻撃を察知できなかったのか。ハマスの指導者、アリ・バラカ氏が8日、ハマスが突然攻撃を仕掛けた翌日に、ロシアのアラビア語放送テレビ「今日のロシア」でハマスが如何に合理的な方法でイスラエルや米国を騙してきたかを暴露している。
「ハマスはどんな紛争にもイスラム教のジハード(聖戦)にも参加せず、彼ら(イスラエルや米国)に、ハマスはガザと250万のパレスチナ人の統治に忙しく、抵抗運動を諦めたと思わせるのに成功した。だが実はこの間ずっと、我々は秘かに今回のこの大規模攻撃の準備をしてきたのだ」(10月12日、WSJ)
米国とイスラエルの油断を誘い、その裏でハマスや彼らを支えたイランの革命防衛隊幹部らは米国やイスラエルの諜報能力を警戒し、一切の通信機器を使わず、対面で作戦を話し合ったという。斯(か)くしてイスラエルは情報収集能力を発揮できなかった。ハマスらは今年8月以降、少なくとも隔週の頻度でレバノンにおいて作戦会議を重ね、その一連の会合に、少なくとも2回、イラン外相のアブドラヒアン氏が参加していた(10月8日、WSJ)。
イランは、最高指導者のホメイニ師による革命以降、「イスラエル抹殺」を唱えてきた。ホメイニ師は1989年に死去したが、その16年後、アフマディネジャド大統領が「イスラエルは地図上から消し去られるべきだ」と発言し世界を驚かせた。イランのイスラエル憎悪は明らかに続いている。そうした中15日、アブドラヒアン氏は「イスラエルがガザでの残虐行為を停止しないなら、イランはただ傍観し続けるわけにはいかない」と警告、次のような発言もした。
「イスラエルがガザに地上部隊を侵攻させれば、紛争が中東全域に拡大する恐れがある。その場合、状況が制御できて紛争は拡大しないなどとは、誰も保証できない」
イランの軍事介入はあり得るということだ。測りしれない不気味さではないか。サリバン米大統領補佐官はイランの軍事介入によって第二の戦線が作られる危険性を指摘したが、米国の力なしにはイスラエルの命運は危うい。
暗い予想が広がる中で、米国が中東に引き戻されるのは必然であろう。オバマ、トランプ、バイデンの三政権は米外交の軸足(ピボット)をアジアに移し、中露と向き合おうとした。バイデン政権が一昨年8月、アフガニスタンから軍を引き揚げたのも、中国の脅威に集中するためだった。しかしそれが今、困難になりつつある。米国は中東に力を注がざるを得ず、中国の脅威に万全の体制をとりにくくなっている。
日本への影響
中国もロシアもこの新たな状況に喜んでいるのは間違いない。日本への影響は限りなく深刻だ。私たちはかなり危険な地平に立たされている。そのことにきちんと向き合わなければわが国が生き残れないのは明白だ。日本国の命運を託されている岸田文雄首相にその意識はあるだろうか。
もう一点、私たちが強く意識すべきなのは、ハマスが始めた戦争は一般人の殺害を作戦の前提としていることだ。ハマスは先述のようにテロリスト1500人をイスラエルに侵攻させて無差別殺人を行った。それは兵と兵、軍と軍との戦いの中で、やむを得ず一般の市民を巻き込んでしまったということではない。最初から一般人を殺害する目的で侵攻したのは明らかで、それはハマスの戦争計画の一部なのだ。
ロシアはハマスのイスラエル侵攻を喜んだと、バラカ氏は述べているが、ロシアはウクライナでハマスと同じことをしているではないか。彼らは毎日ウクライナを攻撃する中で民間のアパート、学校、病院などを狙い続けている。
ハマスとロシアは同類なのだ。そしてウクライナ戦争でも中東の戦争でもテロリストの側に立つ中国も同類である。彼らは国内でウイグル人を殺害し続けている。世界は彼らの不条理の前で、彼らが無視する国際法や人道主義を守ろうと必死である。
そうした中で、何が真実なのか、何を守るべきなのかを、きちんととらえることが欠かせない。イスラエル消滅を国是とするイラン、そのイランに支えられているテロ勢力のハマスを許さないことが第一だろう。そして忘れてはならないのは、イスラエルにとってのハマスはわが国にとっての中国だという点だ。
日本を徹底的に憎み、国民に対日憎悪を植えつける習近平氏の中国に隙を見せず、いざとなれば戦う強い意思と力を、私達が持つことだ。