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2022.06.16 (木)

「 法制審の暴走で家族がバラバラに 」

『週刊新潮』 2022年6月16日号
日本ルネッサンス 第1003回

男性は30代の若さで自ら命を絶った。妻が3人の子供を連れて家を出てから、1年と半月後のことだった。

当時小学生だった長男は父親の棺に「大好きなパパへ」と書いた手紙を入れた。横書きのカードに、幼い字で問うている。

「パパ大好き。でもなぜ死んだの?」

父の死を信じられず、こう言っている。「じさつなんてなんかのまちがえでしょ」

思いの丈を込めて書いている。「パパ大好き大大大大好き」

少年は叫んでいる。「パパに会いたい。生き返って!!」

そして懇願した。「ゆうれいでもいいからでてきて」

この手紙を読んだ或る一人の父親、A氏が打ち明けた。

「私も幼い娘を、或る日突然奪われました。帰宅すると家はもぬけの殻、妻が娘を連れていなくなったのです。長い裁判の結果、私が妻の申し立てたDV(ドメスティックバイオレンス、暴力)夫ではなかったことは認められました。しかし、親権は妻にとられ、10年以上娘に会えていません。自殺も考えました。そのときにパパを亡くしたこの小学生の手紙を読んだのです。涙がとまりませんでした。そして考えたのです。私が死ねば、娘をこんなふうに悲しませるかもしれないと。私はもう死ねなくなりました」

前述の連れ去られた子供たちのその後の行動から、自死した男性は本当に「いいパパ」だったと思われる。男性は元妻が子供を連れ去ってから3か月余りで、一番下の幼児を除く、小学生だった男の子二人を取り戻した。子供たちはパパと一緒にいられることを喜び、父子3人は抱き合うようにして眠った。

だが半年後、裁判所は、長男と次男は親権者の母親の元に置くべきだとの判断を下し、二人の通う小学校に元妻らが「保全執行」に現れた。下の子は下校時に、門のあたりを窺う母親の姿を認めるや身を翻して、裏門から脱兎の如く自宅に逃げ帰った。上の子も連絡を受けて逃げ帰った。二人は子供部屋に鍵をかけ、大人たちが自分たちを連れて行けないようにバリケードを築いた。

DVは濡れ衣

子供たちにとって、父親と離れるのはこれ程いやなことだったのだ。子供たちが一番望んだのは父母と一緒に住むことだったろう。それがどうしてもダメなら、つまり父母が別れなければならないのなら、男の子たちは父親を選ぶという意思を明確に示したものだろう。しかし裁判所は親権を片親にしか認めない単独親権主義だ。このケースでも母親が親権をとり、裁判所はあくまでも父親と子供を引き離そうとした。

他の国々では離婚後も子供の養育には両方の親が関わる法制度が整えられている。子供は生まれたときから両親の庇護と愛情を受け、守られ、導かれ、育てられるべき宝物のような存在だからだ。両親が責任をもって養育に関わるのは当然だ。だからこそ先進国はおよそ全て共同親権制である。単独親権制の日本は極めて例外的、言い換えれば異常なのだ。

妻と、妻の主張を軸に父子の引き離しを図る裁判所は男性を追い詰め続けた。裁判所は上の二人の子供を妻の元に戻すよう法的措置を命じ、男性が末の子に会うことも認めなかった。その決定が下った時、男性は自らの命を絶った。

「子供を連れ去られた」、「助けてほしい」という親の悲痛な訴えは後を絶たない。海外では子供の連れ去りは刑事罰の対象となるのが通例なのに、日本ではなぜ、このような悲劇が続くのか。

問題解決の鍵のひとつがDVへの対処にある。多くの事例が夫の留守中に妻が子供を連れ去るところから起きている。子供を連れて身を隠すのに挙げられる理由の筆頭がDVなのである。だが、妻が夫のDVを訴えるとき、身に覚えがないと困惑する夫は少なくない。先述のA氏のようにDVが濡れ衣であるケースは実は多い。だからこそ子供連れ去りを正当化するDVが、事実か否かを確かめることが必要だ。

欧米の一般的事例では、ここに警察の迅速かつ徹底した協力が入る。DVの通報があればまず警察が乗り出す。警官は現場の状況を見て、DVを働いた側、多くは夫の行為を現認し直ちに家から追い出す。一方、妻も子供も逃げる必要はなくそのまま暮らすことができる。

警察はその後すぐに実態調査を始める。2週間程かけてDV被害による傷や破損、さらに近隣住民の証言等も含めて証拠固めを行う。結果、DVの事実が認められれば、DV夫は改めて妻や家族への接近を相当期間禁止され、罪に問われる。

DV加害者の嫌疑を受けている者を警察が一時的に家から退去させ、DVの有無をすぐに調査することでDVの事実が立証され、逆にDVを受けてもいないのに受けたという嘘の申し立ては通用しないことになる。

政治の怠慢

なぜ、わが国では同様の対処ができないのか。DV事件に警察の手を借りるという、他の先進国で普通に行われている対処法が日本で採用できない理由について、この問題に詳しい弁護士の上野晃氏が説明した。

「DV法は内閣府の管轄で、家族法は法務省の管轄です。内閣府は、警察の介入でDVの有無を早期に判断できるようDV法を改正することなど全く考えていません。片や法務省は、逃げてきた妻の保護をなぜか手厚くし、そこにつぎ込む予算を増やすことしか考えていないと思います」

縦割り行政が日本の異常事態の一因になっている。そこで何が起きているかは、法相の諮問機関である法制審議会の下に設置された、家族の在り方を決める「家族法制部会」(以下法制審)の議論を見れば明らかだ。

法制審は間もなく中間試案をまとめる。今が正念場なのに、内容を精査すべき政治家は7月の参院選に気をとられている。十分な修正はできるのか。

中間試案の最大の問題点は、国際社会に逆行して単独親権という異常な状態を恒久化するところだ。この背景には、法制審の議論がNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長の赤石千衣子氏ら人権派の人々に主導されていることがあるだろう。

この点において、法制審で幅広く意見を聴くと確約しながらそうはしなかった上川陽子元法相、赤石氏らを結果として政権中枢に入れた稲田朋美氏、森雅子氏らには、法制審の暴走を阻止する重い責任があるのではないか。

まず、法制審の暴走を助長する縦割り行政の壁を打ち崩す努力をせよ。単独親権の恒久化と、徹底化阻止のためにも、DV認定に警察の協力を法的に担保することを急げ。政治の怠慢で日本の家族をバラバラにする法改正を見逃してはならない。

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