「 韓国国会議長の暴言は、歴史修正の典型 」
『週刊新潮』 2019年2月28日号
日本ルネッサンス 第841回
韓国の国会議長、文喜相(ムンヒサン)氏の暴言が止まらない。元慰安婦に関して天皇陛下の謝罪を求めた自らの発言に対し、日本が謝罪と撤回を要求した件について、2月18日の韓国の聯合ニュースの取材に応じ、日本を「盗人たけだけしい」と批判した。「謝罪する側が謝罪しないのに、なぜ私に謝れというのか」というのだ。
そもそもの発端は、7日に文氏が米ブルームバーグ通信の取材に、天皇陛下を「戦犯の主犯の息子」と表現し、「そんな方が(元慰安婦の)おばあさんの手を握り『本当にすまなかった』と一言あれば(問題は)解決する」(日本の各紙報道)と語ったことだ。
安倍首相は13日の衆院予算委員会で「(文氏の発言には)多くの国民が驚き、怒りを感じただろう。極めて遺憾だ」と批判し、文氏に謝罪と撤回を求めた。菅義偉官房長官も河野太郎外相も同様に厳しく対応した。
すると文氏は、前述のように、日本側を「盗人」呼ばわりし、安倍政権の厳しい対応は「内政で窮地に追い込まれた結果の戦略」「国内向けだ」と独自の解説をしてみせた。
Australia-Japan Community Network Inc.(AJCN)代表の山岡鉄秀氏が語る。
「それでも多くの日本人は文議長が語った、本当の『無礼さ』をまだ知りません。日本語のニュースしか見ていないからです」
氏はブルームバーグ通信が公表した文氏の音声データを、韓国語のネイティブスピーカーの協力を得て正確な日本語に訳し、こう指摘した。
「日本の新聞各紙は文氏の酷い言葉使いをそのまま書くのをためらい、本当の発言を伝えていません。文氏は誰が謝るべきかについてこう語っています。『日本を代表する首相とか……私は日本を代表する王がいいと思います。彼は間もなく退任するといいますし。彼は戦争犯罪の主犯の息子さんですし。だからそんなおじさんが一度、おばあさんの手を握って……』と語っていました」
無礼な表現
天皇陛下を「天皇」と呼ばずに、「王」と呼んでいる。中国の皇帝を最高位と見做し、日本をその下に位置づける無礼な表現だ。また日本の各紙が「あの方」と記述した部分は実は「おじさん」となっている。国会議長の発言は国家を代表する発言であるにも拘わらず、文氏はこの種の礼を失した表現を繰り返した。
日本人が憤るのは当然だが、朝鮮半島問題専門の週刊新聞、「統一日報」論説主幹の洪熒(ホンヒョン)氏はこう語る。
「あんなクズのような発言にまともにかかわる必要はありません。文氏が一番尊敬する政治家は金大中(キムデジュン)だそうです。金大中は金正日(キムジョンイル)と首脳会談をしてもらうのに4.5億ドル(約500億円)の不正な金を秘密裡に貢いだ男です。文氏は盧武鉉(ノムヒョン)、文在寅(ムンジェイン)両氏を持ち上げますが、二人とも反日であるだけでなく、反韓国親北朝鮮の左翼政治家です。金大中、盧武鉉、文在寅の3人は皆北朝鮮の方が韓国よりもよい国だと見做し、韓国潰しの政策を実行してきた裏切りの政治家たちです。文氏も同類です。彼の発言に刺激されるのは無意味です。韓国には文氏らに反対する立派な保守勢力が存在しており、いま懸命に戦っているのです」
韓国が事実上の内戦状態なのはそのとおりだ。しかし、文氏のみならず文在寅政権の幹部は、文大統領自身も康京和(カンギョンファ)外相も、国会議長の発言を取り消そうともせず、謝罪の姿勢も見せない。政府全体が反日で団結していることは、朝鮮人戦時労働者問題からも、慰安婦問題からも明らかだ。
首都大学東京の名誉教授でシンクタンク「国家基本問題研究所」(国基研)理事の鄭大均(ていたいきん)氏は、国基研の「今週の直言」で韓国の考えの異端の源流は憲法にあると指摘した。
「韓国の憲法前文には、次のように書かれています。『悠久の歴史と伝統に輝くわが大韓民国は三・一運動によって建立された大韓民国臨時政府の法的伝統』を継承する、と」
周知のように「三・一運動」は1919年3月1日に始まる大規模反日独立運動を指す。三・一運動を推進した勢力は当初上海に臨時政府を打ち立てた。だが臨時政府は大きな勢力とはなり得ず、その後流転を重ね、40年には中国の重慶に移った。
文在寅大統領は2017年12月、中国を訪れ、重慶の大韓民国臨時政府の庁舎跡地に立ち、「大韓民国臨時政府は韓国の根」だと語った。
文大統領が語ったこの歴史観は、韓国の憲法前文に記述されている歴史観そのものだと鄭氏は指摘する。即ち、1919年に生まれた大韓民国臨時政府こそ正統な大韓民国であり、1910年から45年までの日本による韓国統治は違法だという意味だ。
大いなる虚構
大日本帝国は1910年に大韓帝国(1897~1910)と条約を結び韓国併合を成し遂げた。だがこれを文大統領も韓国憲法も認めない。彼らは韓国併合に先だって締結された第二次日韓協約は日本が脅迫して結ばせたものだから、国際法上無効だと主張する。この第二次日韓協約によって韓国の外交権は日本に移され、韓国は日本の被保護国となったのだが、協約が国際法上無効であるから、韓国併合自体も無効で、認められないというのだ。
昨年10月、韓国の大法院が朝鮮人戦時労働者問題で下した判決と同じ理論だ。韓国大法院は、日本の韓国併合そのものが韓国の公序良俗に反するもので違法である、従ってその下でなされたことはすべて、認められないとして、日本側に慰謝料の支払いを命じたのだった。
このような認識は大いなる虚構だと鄭氏は指摘する。第一に、国際社会は日本による大韓帝国の統合を合法と見做したのであり、第二に、臨時政府を承認した国はなかったのである。現在の大韓民国が1919年の臨時政府を「根」とすると文大統領は言うが、大韓民国は大東亜戦争終結から3年後の1948年8月に誕生したのではないか。こんなメチャクチャな歴史修正を行う隣国には、日本政府が物を言うことが重要だと、鄭氏はざっと以下のように強調する。
韓国の憲法前文にある歴史認識が内部からの批判を受け、修正されない限り、日韓関係の改善は期待できない。だが、この憲法前文が韓国人自身によって批判される時代がくるとは、想像することさえ難しい。それを批判すべきは日本人、とりわけ日本政府の役割が重要である。今後、日本政府は機会あるごとに、憲法前文にある歴史認識の誤りを指摘し、それが隣国とのパートナーシップ形成にいかに障害になるものであるかを懇切丁寧、かつ執拗に語る必要があるというのだ。
こうした状況を考えれば考えるほど、歴史問題についての正しい情報を研究し、発信する専門機関が必要だと痛感する。