「 将来に禍根残しかねない入管法改正案 日本は外国人政策の全体像を見直す時だ 」
『週刊ダイヤモンド』 2018年11月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1257
安倍晋三首相も自民党も一体どうしたのか。まるで無責任な野党と同じではないか。
外国人労働者受け入れを大幅に拡大する出入国管理法改正案についての国会論戦を聞いていると、普段は無責任な野党の方がまともに見える。それ程、自民・公明の政権与党はおかしい。
11月2日の閣議決定に至るまで、同法について自民党の部会で激しい議論が何日間も続き、発言者の9割が法案に強く反対した。しかし結局、外国人労働者の受け入れを大枠で了承し、法律の詳細は省令で決定するという異例の決着を見た。
深刻な人手不足ゆえに倒産が相ついでいるといわれる建設業界や介護業界の悲鳴のような要請を無視できないという事情はあるにしても、この法改正は将来に深刻な禍根を残しかねない。
今回の改正で受け入れる外国人の資格として「特定技能1号」と「2号」が設けられ、「1号」の労働者の「技能水準」は「相当程度の知識又は経験を必要とする技能」とされた。「2号」の労働者の技能水準は「熟練した技能」とされた。
前者の「相当程度」とはどんな程度なのか。後者の「熟練」とはどの程度か。いずれも定義されていない。
眼前の人手不足解消のために何が何でも外国人を入れたいという姿勢が見てとれる。あえていえば政府案は外国人の野放図な受け入れ策でしかない。
外国人は単なる労働者ではない。誇りも独自の文化も家族もある人間だ。いったん来日して3年、5年と住む内に、安定した日本に永住したくなり、家族を呼び寄せたくなる人がふえるのは目に見えている。その時彼らが機械的に日本を去るとは思えない。すると日本社会にどんな影響が出るだろうか。欧州諸国は移民を入れすぎて失敗した。政府は今回の受け入れは移民政策ではないと繰り返すが、5年間で最大34万人とみられる労働者が事実上の移民にならないという保証はない。
日本にはすでに258万人の外国人が住んでいるのである。その中で目立つのは留学生の急増だ。2013年末に19万人だったのが17年末までの4年間に31万人にふえた。技能実習生は16万人から27万人に、一般永住者は66万人から75万人にふえた。
日本には特別永住者と一般永住者の2種類がある。前者は戦前日本の統治下にあった朝鮮半島や台湾の人々、その子孫に与えられている地位である。彼らは日本に帰化したり日本人と結婚したりで、日本への同化が進み、その数はこの4年間で37万人から33万人に減少した。
問題は一般永住者である。シンクタンク「国家基本問題研究所」研究員の西岡力氏の調査によると、17年末で75万人の一般永住者の3分の1、25万人が中国人だ。一般永住者は日本人と同等の権利を与えられた外国人と考えてよい。滞在期間は無制限で、配偶者や子供にも在留資格が与えられる。活動も日本国民同様、何ら制限もない。彼らが朝鮮総連のような祖国に忠誠を誓う政治組織を作ることも現行法では合法だ。
他方中国政府は10年に国防動員法を制定し、緊急時には海外在住の中国国民にも国家有事の動員に応ずることを義務づけた。仮に、日中両国が紛争状態に陥った時、在日中国人が自衛隊や米軍の活動を妨害するために後方を攪乱する任務に就くことも十分に考えられる。
一般永住資格はかつて日本に20年間居住していなければ与えられなかったが、98年に国会審議もなしに、法務省がガイドラインで「原則10年以上の居住」に緩和した。その結果、20年間で9万人から75万人へと、8倍以上にふえた。今回の外国人労働者の扱いだけでなく、一般永住者の資格も含めて日本国として外国人政策の全体像を見直す時であろう。