「 首相が加計氏に便宜との批判は疑わしい 愛媛県職員の作成文書は一体何なのか 」
『週刊ダイヤモンド』 2018年6月2日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1233
愛媛県知事の中村時広氏が5月21日に参議院予算委員会に提出した文書は加計学園問題を蒸し返すきっかけとなるのか。愛媛県職員が作成した文書には、加計学園側から県担当者に、「2015年2月25日に理事長が首相と面談(15分程度)」、加計孝太郎氏が首相に「今治市に設置予定の獣医学部では、国際水準の獣医学教育を目指すことなどを説明」「首相からは『そういう新しい獣医大学の考えはいいね』とのコメントあり」と記されている。
これをスクープしたNHKや「朝日新聞」などは、これまで首相は加計学園の獣医学部新設について知ったのは17年1月20日だと語ってきた、しかし県の文書では15年2月段階で知っていたことになる、首相は嘘をついていたのかと論難調で報じている。
カケもモリも「もう沢山」だが、ここは事実関係を中心に当時何がおきていたか、把握することが大事だろう。
時系列で整理しよう。
(1)15年5月25日、首相の「いいね」発言(愛媛県文書)。
(2)6月4日、加計学園が新しく法制化された「国家戦略特区」に獣医学部新設を申請。
(3)6月22日、日本獣医師政治連盟が石破茂地方創生大臣に面会。
(4)6月30日、獣医学部新設に関する「石破四条件」が閣議決定。
ちなみに石破四条件とは、獣医学部新設に関して満たすべき条件を定めたものだ。骨子はライフサイエンスなど新たに対応すべき分野の需要が明確になること、それらが既存の獣医学部や大学で対応できない内容であることが証明されなくてはならないというもので、これは日本獣医師会会長会議の会議録に、「(これによって)獣医師養成の大学・学部の新設の可能性はほとんどゼロです」と書かれた程、厳しい要求だ。
しかし、(4)に示したようにこの厳しい内容が6月30日に閣議決定された。
安倍晋三首相を非難する人々は、首相が加計氏に便宜をはかったと主張する。しかし、事実を時系列で見れば、本当にそうなのかと疑わざるを得ない。
今治市に新しい大学をつくりたい、四国には獣医学部がひとつもないので、新しい大学なら獣医学部を中心とするライフサイエンスが最適だと考えて尽力した前愛媛県知事の加戸守行氏がこう語った。
「どうか、冷静になって、時系列で見てください。2015年当時、愛媛県も今治市も、加計学園も、新学部創設を15回も却下され頭を抱えていたのです。私たちは構造改革特区制度の下で、15回申請して、15回全て却下された。その内安倍内閣での却下は5回です。私は世間で言われているのとは反対に首相は冷たいじゃないかとさえ思っていました。私の言いたいのは首相には友達に便宜をはかろうという私心はなかったということです」
15回も申請が却下された当時、その暫く前から内閣府が「国家戦略特区」という制度で、新産業を育てるため岩盤規制を打ち破ろうとしていることを加戸氏らは報道で知った。調べると、すでに新潟県と京都府が獣医学部新設を申請していた。愛媛県もそこに活路を求めて、先述のように15年6月に申請した。すると獣医師連盟がこの動きを察知して早速、石破氏に働きかけ、厳しい条件を閣議決定にまでもち込んだ。これが事実だ。
ここからは既得権益を守りたい獣医師会の姿は見えてきても、安倍首相が友人の加計氏のために何かを画策したということではないだろう。では愛媛県職員の文書は一体何なのだろうか。加戸氏は言う。
「県の職員は真面目ですから嘘は書きません。けれど、書いた情報は伝聞です。そこが間違っていたのではないでしょうか」
私もそう思うがどうか。