「 国民の支持が期待できない、国民民主党 」
『週刊新潮』 2018年5月17日号
日本ルネッサンス 第802回
民進党代表の大塚耕平氏と希望の党代表の玉木雄一郎氏が「穏健保守からリベラルまでを包摂する中道改革政党」として、「国民民主党」を結成する。私はこの原稿を5月7日の国民民主党設立大会前に書いているのだが、新党の綱領や政策の一言一句を読まずとも、これまでの経緯から彼らは期待できない絶望的な存在だと感じている。
今回、新党に参加せず、無所属になった笠浩史衆議院議員(神奈川9区)は語る。
「昨年10月の衆議院選挙で私が民進党から希望の党に移ったのは、安保政策と憲法改正について、民進党よりもよほど現実的で、日本の国益に適う方向で対処しようとする政党だったからです。あの時、希望の党に移った民進党議員全員が、玉木氏も含めて『政策協定書』に署名しました。希望の党の公認を受けて衆議院選挙に立候補する条件として、安全保障法制については、憲法に則り適切に運用する、つまり、安保法制は認めると誓約した。また憲法改正を支持し、憲法改正論議を幅広く進めることも誓約しました。民進党とはおよそ正反対の政策でしたが、私はその方が正しいと考えた。玉木氏もそう考えたから署名したのでしょう。しかし、玉木氏らは事実上、元の政策に戻るわけです。希望の党で私たちは1000万近い比例票をいただいた。その人たちに一体どう顔向けできるのか。これでは信頼は失われます」
長島昭久衆議院議員(東京21区)も無所属を選んだ。氏は語る。
「国民民主党結成には三つの『ありき』があります。連合ありき、期限ありき、参院選ありきです。連合は、民進や希望の、政党としての理念や政策よりも、国会における連合の勢力を保つために、とにかく旧民進党勢力を再結集しようとした。この連合の思惑が非常に強く働きました。しかも連合は両党合併の方向をメーデーまでに明確にさせたかった。その先にあるのは参院選です。労組代表の議席を守りたい連合と、連合の票がどうしてもほしい議員。後援会組織がしっかりしていない政治家ほど、実際にどれだけあるかわからなくても連合票に頼ってしまう。こうした事情が国民民主党結成の背後にあります」
現実に根ざしていない
玉木、大塚両氏を見ていると不思議な気持ちになる。両氏共に優れた頭脳の持ち主なのに、政治家としてはなぜこんなに定まらない存在なのか。玉木氏は東大法学部からハーバードの大学院で学んだ。財務省ではエリートコースの主計局で、主査を最後に、政界に転じた。
大塚氏は早稲田で博士号を取り、日銀に奉じたエリートだ。人間的に嫌味は全く無い。玉木氏とは異なり、語り口も穏やかだ。
エリートでしかも若い世代の両氏が並んで新党構想を披露しても、一筋の光さえも感じさせないのはなぜか。両氏の周りにさえ、財務省出身者と日銀出身者の組み合わせから、政治を統べる能力など生まれるものかと侮る声がある。しかし、政治史を振り返れば、岸信介の後任は大蔵事務次官を務めた池田勇人だった。池田から始まる宏池会政治を私は評価しないが、財務省や日銀出身ゆえに希望が持てないというわけではない。玉木、大塚両氏に期待できないのは、安全保障、福祉、加計学園に関わる岩盤規制、憲法改正などおよそ全てにおいて、両氏の議論が現実に根ざしていないからである。理念先行の、頭の中での空回りなのだ。
両氏の議論で私が本当に驚いた発言があった。今年1月17日、BSフジの「プライムニュース」でのそれである。時間にしてみればごく短い発言だったが、私はこれを聞いて、この人たちのような政治家は真っ平御免だと、心底、思ったものだ。以下に再現してみよう。
大塚:あのぜひプライムでもキャンペーン張っていただきたいことがありましてね
反町理キャスター(以下反町):何ですか
大塚:それは憲法改正はね、最後は国民の皆さんが国民投票でお決めになることなので……(後略)
最終的に国民が決めるというのは正論である。だが、氏は続いて次のように語ったのだ。
大塚:ところが、もし国民投票を逐条でやらずに安倍さんお得意のパッケージでマルペケ付けさせられたら、これはね、かなりあのまずいことになるし、これは私も厳しく……
反町:あ、そうか。そこはまだルールが決まってないんでしたっけ
玉木:いやあの、国民投票法上は基本的には……
反町:(かぶせるように)ひとつひとつのはずですよね
玉木:あのー……ひとつひとつ……やることが一応、義務づけられていたと思いますが、ただ、ちょっと、詳細、いま私も忘れてしまったのですが……
大塚:あのー、そこは、確認、しますが、そのとにかくね、逐条であればね
「旧社会党のようになる」
このあと議論は他のテーマに移ったが、傍線(斜体)部分に注目していただきたい。どう考えても大塚氏も玉木氏も、憲法改正は「パッケージ」でなどできないということを知らなかった、或いは極めてあやふやな理解だったとしか思えない。
憲法改正に関しては、第一次安倍内閣で国民投票法が成立し、国会法が改められた。国会法第六章の二「日本国憲法の改正の発議」の第六十八条の三に「区分発議」がある。それは、「前条の憲法改正原案の発議に当たっては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする」と定めている。
つまり、項目毎の改正しかできないのである。だからこそ、自民党の改正案は4項目に絞られているのではないか。野党第一党としての民進党は党としての改正案もまとめられなかった。右から左まで意見が分かれすぎていて政党としてまとまりきれなかったことに加えて、玉木、大塚両氏に見られるように改正の手続きさえ、よく理解していない、つまり真剣に取り組むことがなかったという結果ではないのか。
国会法改正から約10年、一括して憲法全体を改正できるとでも思っていたのか。この数年、憲法改正は日本国にとっての重要課題であり続けてきた。賛成でも反対でも、その基本ルールも知らずに議論する政治家の主張や理屈など、信じられるものだろうか。
これ程不見識な彼らの近未来を、長島氏が厳しく語った。
「国民民主党が求心力を高められるとは思いません。行き詰まって、結局枝野さんの立憲民主党に吸収される人々がふえると思います。そのとき彼らは旧社会党のようになるのではないでしょうか」
私もそんな気がしてならない。