「 歪められたのか、歪みが正されたのか 興味深い前川・加戸両氏の正反対の主張 」
『週刊ダイヤモンド』 2017年7月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1191
7月10日、学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画問題に関して、衆参両院の閉会中審査が実施された。
興味深かったのが前川喜平前文部科学事務次官と加戸守行元文科大臣官房長の正反対の主張だった。
前川氏は加戸氏の元部下。加戸氏は退官後の平成11(1999)年に愛媛県知事に就任。3期12年間、氏が一貫して取り組んだ課題が獣医学部を備えた加計学園の今治市への誘致だった。両氏の証言から前川氏頼みで安倍政権を揺さぶりたい民進党の主張が透視された。
民進党トップバッターは福島伸享衆議院議員だ。氏の問いに前川氏は、今治市の国家戦略特区に獣医学部を新設する件では、背景に官邸、とりわけ和泉洋人首相補佐官の動きがあったと、固有名詞をあげて語った。
特区の諮問会議が獣医学部新設を決定したのは平成28年11月9日だ。にも拘らず、加計学園の渡邊事務局長が文科省の課長を訪ねて相談したのが同年10月21日だったのはなぜか。獣医学部新設が認められるか否か不明な段階で、新設学部は現有の学部を上回る数の教授を揃える、カリキュラムの内容をふやすなどの会話がなされている。加計学園ありきではないかと、福島氏は質した。対して、常盤豊文科省高等教育局長がこう回答した。
「構造改革特区の段階からすでに(学部新設に向けての)動きが(加計学園に)あった。(学部新設決定前に)設置の相談をということはあり得る」
構造改革特区は平成14年、小泉政権が導入した規制緩和のための制度である。安倍政権下で始まった現在の国家戦略特区以前の制度で、その古い制度の時代から加戸氏や加計学園は獣医学部新設を申請していたということだ。だが、獣医師会及び文科省は既得権益擁護のために、自治体の要請を「はねつけ続け」(加戸氏)、獣医学部新設の要請は実に52年間も受け付けてもらえていない。常盤局長が言外に言っているのはそういうことだ。加計学園はずっと前から獣医学部新設に向けて準備していたのであり、その一環としてさまざまな相談があったのは自然なことだと、指摘したわけだ。
それでも福島氏は、加計学園問題や国家戦略特区を総理は岩盤規制の突破だと言うが、むしろ新たな規制になっていると論難した。獣医学部新設を希望した大学は他にも京都産業大学や新潟食料農業大学があったが、加計学園にしか認可がおりないようになっていたというのだ。だが。京都産業大学が書類を揃えてようやく正式に名乗りを上げたのは去年10月だ。新潟食料農業大学は結局、申請書類を出さなかった。加戸氏が語った。
「私は少なくとも10年前に愛媛県民、今治の人々の夢と希望を託されて(獣医学部新設に)挑戦した。厚い岩盤規制ではね返されたが、やっと(安倍政権の)国家戦略特区の枠で実現しようとしている。今、本当に嬉しい」
前川氏は、加計学園問題で官邸、つまり安倍首相や和泉補佐官らが介入し、「行政が歪められた」と繰り返した。だが、加戸氏は「国家戦略特区によって、歪められた行政が正されたというのが正しい発言だ」と、前川発言を真っ向から否定した。
7月10日の審査への私の感想は、まず、民進党などは獣医学部新設という問題の本質から離れて加計学園問題を安倍政権批判に利用しているにすぎない。2、香川県出身の自民党衆議院議員、平井たくや氏のお粗末な質問に見られるように、自民党の中には、危機の深刻さを理解していない議員が少なくないのではないか。3、先週の当欄でも指摘したが現役事務次官時代に新宿のいかがわしい場所に数十回も通ったことを貧困女子の実態調査だと言って恥じない前川氏の人格の低劣さが、またもや際立ったことの3点だ。