「 市場経済も軍事力も拡大中の北朝鮮 日本は国民守る手立ての早期整備を 」
『週刊ダイヤモンド』 2017年6月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1185
「北朝鮮はわれわれが考えていた以上に強い国力を有していて、経済は成長を続けています。市場経済が発達して、恐らく、国民の生活水準は過去になかった程、高くなっていると思います」
米国のジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮分析サイト「38ノース」の編集長兼プロデューサーを務めるジェニー・タウン氏が、都内で開かれた小規模の勉強会で語った。
「38ノース」もタウン氏も、北朝鮮の核ミサイル開発が進む中で、衛星写真の詳細な分析によって、国際社会の注目を浴びている。氏は、街で見掛ければ「若いOL」にでも間違われそうな佇まいの女性だ。
彼女がジョンズ・ホプキンス大で朝鮮半島研究を始めたのは2006年、「38ノース」の立ち上げは10年だ。氏はさらに次のように語った。
「多くの市民が携帯電話を持っています。ファッションにも聡いことが服装から見てとれます。多くのビジネスが生まれており、市民の経済活動の幅が広がり、競争の原理が働く市場が生まれているのが見てとれます」
かつて統制経済の下で、ピョンヤンは選ばれた人々の住む特別な地域として、食糧など必要な物資はおよそ全て「金王朝」によって支給された。だが金正日時代の末期から配給が止まり、ピョンヤン市民、即ち、政府・軍の高官までも「自活」を迫られた。タウン氏の指摘する「ビジネス活動の普及」は、その結果である。
北朝鮮全土の市場は約400カ所にふえたと氏は指摘する。朝鮮問題の専門家、麗澤大学客員教授の西岡力氏も、ピョンヤンなどに新たなガソリンスタンドができて繁盛していること、市場経済の中で「金持ち」が生まれていることは事実だと指摘する。タウン氏は、金正恩朝鮮労働党委員長はこうした経済活動を許容し、一連の経済活動から生ずる利益が、金正恩氏の核・ミサイル実験をはじめとする軍事開発コストを賄っているとの見方を示した。
他方、金正恩氏の「金庫」と位置づけられている「39号室」の現金が底をついているとの情報もある。そのため、金正恩氏の野望を満たすためのさまざまな物資の調達は現金ではなく金塊で支払っているとされ、これは脱北者からのかなり確かな情報だ。この件を尋ねるとタウン氏は次のように答えた。
「判断は難しいが、ハードカレンシー(他国の通貨に交換可能な通貨)は北朝鮮にはかなりある。市場では人々はクレジットカードやデビットカードを使用しています」
北朝鮮経済が行き詰まっているとの見方は間違いだと氏は結論づける。北朝鮮は軍事的にも世界が考えるより遙かに先を行っていると指摘した。
「核関連施設は約100カ所あると考えられます。その内、われわれが把握しているのは約20カ所です。残りは解明できていません」
北朝鮮の咸鏡北道吉州郡の豊渓里(ブンゲリ)が核実験場であることはすでに確認されている。先月そこで作業員らがバレーボールに興じる様子を、タウン氏はかなり鮮明なVTRで披露した。
「この画像に込められたメッセージについて、われわれは専門家を交えて分析しました。北朝鮮はいつでも次の実験準備は整っていると伝えたいのだと思います。彼らは核を放棄しないでしょうし、いまは次なる核実験をするための機会を窺っていると思います」
米国が恐れる北朝鮮の大陸間弾道ミサイル技術に関して、北朝鮮は大気圏に再突入する技術の確立にも成功したと見られる点を強調したうえで、タウン氏は、北朝鮮は通常兵器も大幅に増産、改善していることを忘れてはならないと警告する。
切迫した状況が私たちの眼前にあることを見るにつけ、テロ等準備罪や憲法改正など、日本は国民を守る手立てをできるだけ早く整備すべきであろう。