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2016.09.29 (木)

「 いまが柔軟政策で拉致解決にあたるとき 」

『週刊新潮』 2016年9月29日号
日本ルネッサンス 第722回

 
9月17日、東京・平河町で拉致問題に関する国民大集会が開かれた。安倍晋三首相が加藤勝信拉致問題担当大臣らと共に出席、「拉致問題は安倍内閣で解決する」と改めて強調した。
 
横田めぐみさんの母、早紀江さんは、体調を崩している夫の滋さんを心配しつつ、国民大集会に参加した。拉致被害者の家族で、いま親御さんが存命なのは3家族。横田家に加えて有本恵子さんの両親である明弘、嘉代子夫妻と増元るみ子さんの母、信子さんだけである。
 
早紀江さんが語った。

「私たちも年を取りました。めぐみの拉致から39年、子供たちも長い年月、囚われています。家族会は、有本さんも含めて安倍総理を信じていくという形でまとまっています。けれど、余りにも時間がかかりすぎています。どうしたら解決できるのか、本当にわかりません」
 
40年間、朝鮮半島情勢を研究し、救う会会長として力を尽してきた西岡力氏は、いま拉致問題解決のために思い切った方策を取るべきだという。

「日朝双方に時間がありません。拉致被害者のご家族は高齢化しています。拉致された人たちが何十年もの間、どうしているのかも心配です。金正恩も国内事情の危うさを考えれば、早急に対策が必要なはずです。双方が切迫した状況の中で、金正恩はまたもや核・ミサイル発射の実験をして、国際的孤立を深めました。世界中が非難し圧力をかけています。それを利用するのです」
 
氏の主張はこうだ。世界が北朝鮮に圧力をかける中、日本は核・ミサイル問題に加えて、拉致問題でも制裁をかけている唯一の国だ。日本政府独自の制裁には、たとえば在日の朝鮮籍の人物の日本への再入国を許さないなどがある。現在は朝鮮総連中央本部の幹部らに限定している再入国禁止措置を、政府は朝鮮総連の地方幹部にも広げようとしている。北朝鮮に忠誠を誓う彼らだが、日本に戻れないことは相当の痛手で、効果は大きい。日本が科している制裁は、国際社会のそれよりずっと厳しく、国際社会と日本の制裁のギャップを活用すべきだ、というのだ。

「安倍首相は、制裁はそれを科すときと外すときと2度使えると語っています。いまは外すことによって北朝鮮を動かすことを考えるときです」

貴重な収入源
 
西岡氏は、北朝鮮への制裁を強めるのでなく、緩和せよといっているわけだ。そのために日本は核・ミサイルゆえにかけた制裁と、拉致ゆえにかけた制裁を分けて考えよ、というのだ。

「国際社会がまとまって北朝鮮の核開発阻止でかけている制裁を日本が解除することは勿論できません。しかし日本独自の制裁なら解除できる。拉致被害者全員を日本に返すことを条件に、日本独自の制裁部分を緩和する、それを梃子にして拉致問題を先行解決するというのが家族会と私たちの考えです。これを拒否するよりも受け入れる方が北朝鮮にとってもよい条件だと思います」
 
拉致被害者全員の帰国という条件を守れば、日本が直ちに解除できる制裁の具体例のひとつに松茸の輸入がある。松茸の収穫は北朝鮮の方が日本よりも早く、そろそろ市場に出回る季節だ。だが、わが国はいま、松茸だけでなく北朝鮮の全品目の輸出入を独自に禁止している。そのため、北朝鮮の松茸を日本に輸入することはできない。
 
ところが北朝鮮にとって松茸による収入は貴重である。『産経新聞』矢板明夫記者が約1年前に詳報したが、日本が世界一高い値段で買う松茸の代金は、金正恩第1書記の秘密資金を扱う朝鮮労働党39号室傘下の企業が管理している。禁輸措置があるからといって、39号室は貴重な収入源を諦めるわけにはいかない。そこで彼らは松茸を中朝国境に近い中国吉林省延吉市の問屋の手に卸し、中国吉林産という偽装書類を作成して、日本に輸出するのだ。
 
そのルートが今年も蠢き始めたという確かな情報がある。拉致問題対策本部長の山谷えり子氏らは、現在、監視を強めさせている。

「このような日本独自の措置は、北朝鮮が拉致被害者全員を返せば緩和できます。北朝鮮は堂々と輸出できる。勿論、北朝鮮の核やミサイルに関する制裁は、日本も国際社会の責任ある国としてきちんと守ります。解除できる制裁と解除できない制裁を彼らに明確に伝えて、金正恩氏に冷静な計算をさせるように仕向けるのはいまだと考えます」と、西岡氏。
 
9月8日に訪朝した参院議員のアントニオ猪木氏に北朝鮮側は序列2位の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長、それに李洙墉(リ・スヨン)朝鮮労働党副委員長(序列8位)との会談を設けた。西岡氏の解説である。

核・ミサイルと拉致の分離

「李洙墉氏は金正恩氏がスイス留学中に面倒を見た人物です。金正日がスイスの銀行に預けていた秘密資金を管理していたのも李氏です。正恩氏は李氏をスイスから呼び戻して国際担当の党副委員長に任命した。委員長は正恩氏自身です。正日、正恩と2代続いて信頼されている人物が、無所属の議員にすぎない猪木さんに会った。正恩氏の最側近の金永南氏も会った。これは、北朝鮮は国際社会と対立しているけれども、日本とは交渉したいというメッセージに他ならないと思います」
 
正恩氏は父親の正日氏が小泉訪朝のときに日本から取り損ねた1兆円がいまでも諦めきれていないという。彼は「俺が日本から1兆円を取ってやる」と語ったそうだ。
 
だが、彼が核開発を諦めない限り、日本が1兆円を渡すなど、できようはずがない。一方、彼は自身の生き残りのために核兵器を諦めることは絶対にないだろう。であれば国連の制裁は続く。日本からの1兆円もあり得ない。この国際社会の現実を正恩氏に理解させることが一体、誰にできるのか。
 
拉致被害者を取り戻すための、核・ミサイルと拉致、2つの問題の分離戦略で、拉致問題解決の、細いけれども、希望を持てる一筋の道を切り拓くには理性と国際社会の現実に対する理解が必要だ。加えて十分な意思の疎通が欠かせない。それは可能か。加藤氏は、日本が核と拉致の包括的解決を目指す姿勢に基本的変化はなく、西岡氏の提起する新しい局面を論ずるにしても、現在日朝間に交渉のパイプはないと、慎重である。
 
早紀江さんが深い吐息と共に語った。

「沢山の不安はあります。けれど、安倍さんでなければ拉致は解決できないことを、家族は身にしみて感じています。いま、私たちは土壇場にいます。失敗するかもしれませんが、決断してやらなければ拉致問題は動かないと思います」
 
如何なる形であれ、核・ミサイルと拉致を別立てにする方向で北朝鮮との話し合いに入る道を探るときであろう。

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