「 隙あらば侵略の機会うかがう中国 冷静かつ力に基づく戦略を取る日本 」
『週刊ダイヤモンド』 2016年9月3日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1147
悪貨は良貨を駆逐するといわれる。だが、中国が席巻するアジアにしてはならない。いま、私たちはその岐路に立っていると、強気に出る彼らを見て思う。
8月24日、日中韓外相会談に続いて、岸田文雄外相は東京で中国の王毅外相と会談した。岸田氏が「中国公船」が尖閣諸島周辺で相次いで領海侵入していると抗議すると、王外相は尖閣諸島は中国領だと、従来通りの主張で反論、記者団に「事態は基本的に正常な状態に戻った」と述べた。
いかにも中国らしい主張ではないか。駐日大使だった当時、氏は、東京・有楽町の外国特派員協会などを舞台に尖閣諸島や東シナ海問題について絵に描いたような偽情報を流し続けた。国際社会に中国の主張を浸透させるためのデマゴーグとはいえ、そのあからさまな虚言外交には驚くばかりだった。
そこで王外相の「正常に戻った」との発言の実態を明確に認識する必要がある。確かに、リオデジャネイロオリンピックの開会式に合わせて押し寄せた公船15隻と漁船300隻は、これまで通りの規模、公船三隻と漁船数十隻に戻っている。だが彼らは25日現在22日連続で尖閣の海を航行中だ。沖縄県石垣市議会議員で、防衛協会幹部の砥板芳行氏が語った。
「王外相の言う『平常』は中国海警局の公船と海上保安庁の巡視船がにらみ合いを続けている状態なのでしょう」
中国が侵略的行動を繰り返し、海上保安庁が警戒し続けるのを、王氏は「平常」と言うわけだ。
「本土の人たちが考える以上に、沖縄の海は中国に侵食されつつあります。中国の調査船はわが物顔で日本の海の調査をします。一群の軍艦が沖縄本島と宮古島の間を航行して存在感を見せつけます。こうしたことを通して、彼らは自らのプレゼンスを沖縄の海で常態化しているのです」と砥板氏。
こうした中、8月24日にも尖閣の海に人民解放軍の軍艦が入っていたとの驚くべき情報がある。しかもそれは久米島周辺の接続水域だという。
久米島は尖閣諸島の魚釣島から東に410キロメートル、沖縄本島に近い。事実なら海上警備行動発令になろう。
海保も防衛省もこの情報は全否定したが、6月9日、尖閣諸島周辺海域に中国の軍艦が初めて侵入したのは記憶に新しい。それまで海警局の公船だったのを、中国は一気に軍艦を送り込んできた。このことを各全国紙は一面で伝え、尖閣情勢が新たな緊張の段階に入ったと解説した。
中国の動きは止まらず、15日には、鹿児島県口永良部島周辺の領海に、16日には尖閣諸島の東大東島の接続水域に、中国の軍艦が侵入した。ここまでは大きく報道されたが、その後、中国軍艦侵入の情報は伝わってこない。私の得た情報は前述のように海保も防衛省も否定した。しかし、かといって、尖閣の海が平和で安全な海に戻ったということでは、全くない。
自衛隊と海保はいかにして日本の海を守っているのか。中国が30万人規模の海上民兵隊をつくり、隙あらばと侵略の機会をうかがっている中で、中国の野望を阻止するために、日本が実施しているのは、意外にも力に基づく戦略である。ただ、日本の対応が極めて冷静かつ沈着であることは、国民として知っておきたいものだ。
「中国が10隻の船を出せば、わが方は12隻出す。中国が戦闘機2機を出せば四機出すという具合です。力を見せつければ日本は引っ込むという誤解を、中国に与えないためです」
右の関係者の言葉は、各局面で日本は、国防に関して絶対に妥協しないという決意を示し続けることで、中国に誤解させないということを示している。この姿勢もしかし、海保、自衛隊の予算を増やすことなしには続けられない。このことこそ、私たち国民は知っておくべきだ。