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2016.07.07 (木)

「 国民投票がもたらす英国の衰亡 」

『週刊新潮』 2016年7月7日号
日本ルネッサンス 第711回

6月23日、イギリスの命運を決する国民投票が行われ、欧州連合(EU)からの離脱を望む人々が約4%の差で残留派をおさえた。
 
オバマ大統領をはじめとする米国首脳はイギリス国民の決定を、「アラブの春」の民主化運動勃発に対するのと同様の驚きで受けとめたと、「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)が28日の紙面で伝えたが、それ程予想外だったということだ。
 
日本の国益に立って、イギリスの決定をどう見るべきか。押さえるべき要点は、イギリスが衰退に向かうのか否かと、中国、ロシアなど、日本が警戒すべきプレーヤーがどう動くかである。
 
国民投票の結果は、イギリスに辛うじて残されていた大国の輝きと矜恃を、長期衰退の中で、打ち砕いていくのではないか。
 
国家の運命を変える転換点となった重要な国民投票だったが、恐ろしい程に大衆迎合的だった。残留派は、デイビッド・キャメロン首相を筆頭に、離脱がイギリス経済にもたらす深刻な損失や、失業の増加といった負の影響を語り続けたのに対し、離脱派は移民を排斥し、EUの官僚機構の支配から脱け出しさえすれば問題は片づくという短絡的主張で、感情論に訴えた。彼らはEUを離れて如何にして経済をもり立てるのか、英国の輝きと豊かさを具体的にどう取り戻すのか、世界戦略はどうするのかについて、明確な政策は一切提示していない。提示できなかったのは、彼らにも分かっていないからだ。
 
離脱決定直後から現実世界は激変し始めた。金融業でGDPの10%を稼ぎ出すイギリスの金融街、シティからアメリカ系銀行を筆頭に欧州本部移転の動きが見え始めた。イギリスが中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、アメリカの強い反対を押し切って参加したのも、世界金融の中心であり続けるためだった。それを自ら切り崩しかねないのが離脱であることに、イギリス国民は気がつかなかったのか。

国際外交の要
 
イギリス国民はまた、EU残留を強く希望するスコットランドのことにも考えが及ばなかったのか。スコットランド行政府首相のニコラ・スタージョン氏は国民投票後、直ちに会見して「スコットランドの未来はEUの一部となることだ」と語り、14年に続いてイギリスからの独立の是非を問う住民投票実施を宣言した。
 
国土の30%を占めるスコットランドの離脱は、連合王国としてのイギリスの力を決定的に削ぐ。イギリス経済を支える北海油田はスコットランドの海にある。原子力潜水艦の母港、クライド海軍基地も同様だ。スコットランドなしのイギリスは、連合王国のブリテンからただの「ちっぽけなイギリス」(NYT)になる。
 
こうした懸念を受けて、離脱決定間もない6月26日の段階で、早くも320万人が国民投票のやり直しを求めて署名した。熱情に駆られた選択、直後に噴出した後悔の念。そのせめぎ合いの中の25日、イギリスを追い込むかのように、EU創始国6か国(ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルク、ベルギー、オランダ)外相会合で、EU側はイギリスに離脱手続きの早期開始を求めた。アンゲラ・メルケル独首相はこうした性急な動きに批判的ではあるが、イギリスの未来展望は暗い。
 
アメリカとEUの関係も変質せざるを得ない。これまでアメリカはイギリスを介してEU諸国に影響を及ぼしてきた。イギリスほどアメリカと世界観を共有し、安全保障、インテリジェンス、さらに、自由貿易推進などで協力してきた国はない。
 
イギリスはアメリカの国際外交の要だが、イギリスが抜けた後、EUに残るのは、アメリカとはしっくりこないフランスである。イタリアもオランダも影響力を行使するには貧しく力が弱い。EUの大国ドイツは、アメリカに対する猜疑心を拭いきれない。アメリカのEUとの関係は当然薄れ、アメリカの後退した空白に、ロシア、さらに中国が入り込むことが予想される。
 
同時進行で、先に“恐ろしい程”と書いたポピュリズムの動きが拡大していくだろう。現にアメリカ共和党のドナルド・トランプ氏とフランスの極右政党、国民戦線党首のマリーヌ・ルペン氏はイギリスの決定を絶賛した。
 
ルペン氏はイギリスを起点として始まる政治の潮流を「アラブの春」になぞらえて「人民の春」と呼び、その流れを止めることは不可能だと説く。トランプ氏を支持するアメリカ国民の孤立主義が次期米政権に影響を及ぼし、アメリカが米軍の縮小や撤退に踏み出すとき、日本を含む世界への影響ははかり知れない。

「人を殺すための予算」
 
一方で、中国とロシアが一連の変化をこの上ない好機として注意深く観察している。習近平主席とプーチン大統領は6月23日と25日、ウズベキスタン及び北京で立て続けに会談した。異例のことだ。それだけ、両国にとってこの数日は国際政治のどんでん返しをはかるための重要な局面だった。両国は明らかに、アメリカを共通の敵と位置づけ、宇宙空間への軍備拡張に関しても共同歩調をとる構えだ。南シナ海問題でロシアが中国の立場を支持したか否かは不明だが、ロシアは国際法廷ではなく、当事国同士で話し合うべきだとの立場に立つ。海の問題でも両国は究極的には同じ側に立つと見るべきだ。
 
このようにアメリカもEUも、中国もロシアも、イギリスの決定による世界情勢の変化を血眼で分析している。その中でいま、わが国では参議院議員選挙が行われている。この激動の世界で如何にして日本を守っていくかが最重要の論点であろうに、政治の意識はそこに行っているのかと思えば、疑わしい。
 
国を守るには経済力と軍事力の整備が基本である。日本がとりわけ欠いているのは、明らかに軍事力である。自衛隊は憲法上軍隊ではないとされ、厳しい規定で軍隊としての展開が制限されている。憲法改正が必要だが、その前に、自衛隊の力を強化することが日本の生存を担保する。
 
だが、民進党が共闘する日本共産党は、自衛隊をどのように見ているか。共産党政策委員長の藤野保史氏は防衛予算を「人を殺すための予算」と発言した。藤野氏は後に発言を取り消したが、発言は党及び氏の自衛隊に関する本音を表しているのではないか。
 
共産党は自衛隊を当面存続させる方針だが、違憲の存在だと位置づけている。自衛隊を「人を殺す」組織と見ているのであれば、「当面存続」の後に、自衛隊を解散する時が必ず来るのであろう。世界が激変し、中国が南シナ海、東シナ海を狙っている中で、民進党はこのような考えの共産党と、選挙で共闘するのか。安保法制の廃棄を目指すのか。どう考えても受け入れられない。

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