「 18歳以上に選挙権の参議院選挙 重要争点は中国との付き合い方 」
『週刊ダイヤモンド』 2016年7月2日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1139
初めて18~19歳の人たちも投票できる参議院議員選挙が始まった。私はどんな18歳だっただろうか。夢はたくさんあったが、世界や政治のことなど何も分かっていなかった。けれども、いま、18歳以上の人々は国の在り方を決める権利と責任を与えられた。そのことに正面から向き合ってほしい。
世界を見渡すと、若い世代の声が国の在り方を大きく変えた事例は少なくない。台湾のひまわり運動、香港の雨傘革命、18歳とは限らないが米国でもヨーロッパでも、若い人々が政治を大きく動かしている。
台湾のひまわり運動の学生たちは、馬英九政権の下では中国の一部としてのみ込まれると直感して立ち上がった。2014年3月から4月にかけて、彼らは実に30日間も台湾議会を占拠し、台湾の中国化に異を唱えた。彼らの運動が起爆剤になって、民進党支持が高まり、蔡英文総統が誕生したと言っても過言ではない。
香港では学生たちが道路を占拠し、大陸中国が一党支配を強要するのに抵抗した。香港人は、過去約1世紀間、英国統治下で民主主義や自由、法治などを身に付け、そうした価値観は彼らにとって空気のように必須かつ当然の生きる基盤になった。
香港人の価値観を尊重するために、英国は香港返還を決めた1984年、一国二制度の合意で、50年間、香港は自由と民主主義体制を続けると、中国に確約させた。しかし、中国共産党は合意をほごにし、自由選挙を否定し、一党支配を押し付けようとした。
そのことに抵抗して立ち上がった雨傘の学生たちはいま大変強い弾圧の下にある。しかし、中国共産党が自国民も香港人も台湾人も、誰一人幸せにできていないことは明らかだ。権力を一手に握っても自国民さえ幸せにできない独裁者が周辺国と「ウィンウィンの関係」を築くことなど不可能だ。
今回の参院選の重要争点は、この中国との付き合い方をどうするかという点だと、私は思う。中国の隣という地理的条件、中国と肩を並べる経済大国という事実が、日本を中国の最大のターゲットにしている。
そうした中、中国への最大の抑止力だった米国がトランプ氏の唱える「アメリカ第一」の下で、日本にも韓国にももはやあまり関わりたくないと考え始めている。他方、日本は自主防衛など、到底、できない。中国の軍艦が鹿児島沖や沖縄沖の海に侵入し始めたいま、日本の生き残りは緊密な日米関係とオーストラリア、インド、東南アジア諸国との協力関係に懸かっている。それは、日本がどれだけ自力を強化できるかということにもつながる。他国に頼るばかりの日本では、どの国も相手にしてくれないからだ。
戦後最大のこの危機を乗り切る際に、私たちは形容詞を頭の中から排除しなければならない。形容詞をかぶせた瞬間、事実に沿って物事を考えることができにくくなるからだ。例えば、野党は安全保障法制を戦争法と呼ぶ。そう言った途端に、安保法制のルールや、それがどんなに厳しく自衛隊の動きを規制したものかなど、安保法制の実体が見えなくなり、いまにも日本が戦争に向かって走っていくかのようなイメージに陥ってしまう。しかし、安保法制を具体的に検証すれば、それが戦争に直結するなど絶対に不可能で、むしろ、それなしには日本の安全は守り難いことが見えてくるはずだ。
南シナ海で起きたことは東シナ海でも起きる。日中中間線近くで中国は次々に海洋ステーションを構築した。尖閣諸島も含めて一連の事態に備えるには、安保法制だけでは到底不足である。その意味で憲法改正こそ参院選で問うべき争点だと思う。台湾や香港の学生のように、日本の学生たちも世界情勢、とりわけ中国の行動を見て、日本の国の守り方を考えてほしいと思う。