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2016.06.30 (木)

「 今だから読んでみよう、共産党綱領 」

『週刊新潮』 2016年6月30日号
日本ルネッサンス 第710回

民進党、共産党、社民党、生活の党と山本太郎となかまたちの4党が参議院議員選挙で共闘する。政党とは各自、公約を掲げて選挙に臨むのが基本である。その視点から、私は自民党と公明党の選挙共闘への批判を繰り返し、表明してきた。
 
同じ意味で、32ある1人区の全てで統一候補を出す民進党や共産党などの野党協力には強い違和感を抱く。民進党議員の中にも、一部ではあるが、共産党との協力に強い抵抗感がある。だが、選挙を前にして、そうした反対論は掻き消されている。
 
国際社会では共産主義は疾うの昔に敗北し、先進国で共産党が勢いを増しつつあるのは日本だけではないだろうか。なぜ彼らは勢力を伸ばし得るのか。私たちが日本共産党の実態をよく知らないからではないか。
 
これまで何度か党綱領を改定した日本共産党は、本当はどんな国造りを目指しているのだろうか。彼らがかつて否定した自衛隊、皇室、私有財産などについて、現在はどう考えているのか。志位和夫委員長の振りまく笑顔などより、これらの事実関係に注目すべきである。
 
まず、皇室について。今年1月4日、天皇陛下をお迎えした国会開会式に、志位氏らは1947年以来、69年振りに出席した。

「天皇制に反対するという立場で欠席しているとのいらぬ誤解を招」かないため、また、「憲法順守のための改革を提起」するための出席である旨、志位氏は説明した。
 
ちなみに「天皇制」は国際共産党(第三インター、コミンテルン)の造語で、正しくは「皇室」であろう。
 
志位氏以下共産党の本音はどこにあるのか、梅澤昇平氏の『皇室を戴く社会主義』(展転社)がヒントを与えてくれる。梅澤氏は民社党の政策審議会事務局長を務め、日本の労働問題、社会主義、共産主義の研究で知られる。著書には、わが国の社会主義、共産主義勢力と皇室との関わりについて、驚くべき内容が紹介されている。日本文明の粋をなす皇室と、社会主義、共産主義勢力との関係を辿れば、日本共産党の実相も自ずと見えてくるのではないか。

皇室に親愛の情
 
日本共産党は中国共産党と同様、コミンテルンの支部として生まれた。これに対抗して社会主義者は1951年に「社会主義インターナショナル」を結成、結成宣言で共産主義の理念と運動を全面否定した。社会主義インターナショナルは自由主義陣営に立ち、漸進的改革を目指す立場から、国際共産主義を「新たな帝国主義の要具」と見做した。社会主義者は共産主義者との相違を明らかにするために、自らを「デモクラティック・ソーシャリズム(民主社会主義)」と定義。イギリスの労働党、ドイツの社民党、フランスの社会党、北欧の社民党などが、この民主社会主義勢力の主力だとされている。日本では、ともすると「社会主義」と「共産主義」が混同されるが、そのような混同は世界の「社会主義」勢力の実態とは程遠いと梅澤氏は指摘するのだ。
 
日本の社会主義勢力や共産主義勢力は驚く程、皇室に親愛の情を抱いていた。まず浅沼稲次郎である。浅沼は当初、日本共産党に入党、1932年に社会大衆党入党、戦後は日本社会党結成に参加して書記長、委員長を歴任した。
 
日本の代表的な左翼政治家だった彼は天皇を敬愛し、アパートの居間に神棚を飾り、毎朝それに向かって拍手を打っていた。「天皇制打倒をまくし立てる」共産党を嫌悪していたというのだ。
 
賀川豊彦は牧師で、戦後、ノーベル平和賞候補に挙がったと言われる。無産政党運動で活躍し、また日本社会党結成の呼びかけ人の1人だった彼は外国人記者クラブで会見し、「天皇の下に民主主義政治が行われていることはイギリスやスウェーデンの例がある」と、キリスト教徒の皇室擁護論を展開した。
 
賀川は、また社会党結成大会では「感極まって、会場の中から『天皇陛下万歳!』を叫んだ」という。
 
日本社会党は皇室を自然な形で受け入れていたのだ。共産党にも同様の傾向が顕著だった。しかし、そのような皇室観は、天皇制打倒を原理とするコミンテルンとは相容れない。その軋轢が多くの転向者を生み出したと、梅澤氏は指摘する。1933年、当時日本共産党最高幹部で獄中にあった佐野学、鍋山貞親の両名が次のような転向声明を出した。

「日本の天皇制はツァーリズムなどとは異なって、抑圧搾取の権力たることはなかった。皇室は民族統一の表現であり、国内階級対立の凶暴性を少なくし、社会生活の均衡を#齎#もたら#し、その社会の変革期に際し階級的交替を円滑ならしめてきた」「人民大衆は皇室に対し、尊敬と共に親和の感情を持っている」「日本民族を血族的な一大集団と感じ、その頭部が皇室であるという本然的感覚がある」「かかる自然の情は現在のどこの国の君主制の下にも恐らく見出されまい」

自然な国民感情
 
梅澤氏は、右の両名はいまで言えば共産党委員長、書記局長らに相当し、彼らに従って600名もの党員が一斉に転向したが、極めて大きな衝撃だったはずだと解説している。
 
鍋山は『共産党をたたく十二章』(有朋社)で、「天皇制打倒は日本共産党の専売である」「大正8(1919)年、日本にはじめて共産党が成立した後、その綱領で『天皇の政府の転覆および君主制の廃止』ということを、取り上げた」。しかし、そのことは、「国内的には、ひた隠しに、隠し通した」と書いている。
 
後に彼が、モスクワの天皇制打倒指示や、その考えに従う日本共産党のこうした方針に反旗をひるがえして転向したことは既に触れた。
 
梅澤氏による社会主義者と共産主義者の皇室観の分類が興味深い。浅沼や佐野、鍋山らの事例に見られるように、社会主義者や右派共産主義者の皇室観は、理論や理屈を超えた自然な国民感情に基づくものだ。天皇を国民統合の中心ととらえ、揺るぎない尊敬の念を抱いている。梅澤氏はこれらの人々の最後に、コミンテルンの指令で動いた共産党主流派を置き、天皇廃止論型として分類した。そこで知りたい点が、現在の共産党主流派の考えである。
 
共産党綱領は「天皇の制度は憲法上の制度であり、その存廃は、将来、情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべきものである」と明記している。私はこれを、将来の皇室の廃止を念頭に、機会が来るまで待つ姿勢だと解釈するが、おそらく間違ってはいないだろう。
 
民進党はこの共産党と共闘するのだ。憲法における天皇・皇室の在り方についても、国旗・国歌についても、民進党は統一見解をまとめられずにいる。足元の定まらない状況で、組織力のある共産党と共闘するのは、呑み込まれることを意味するだろう。民進党の現状こそ嘆かわしい。

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