「 慰安婦報道を22年放置した朝日新聞は廃刊し謝罪すべし 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年8月23日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1047
8月5、6両日、「朝日新聞」が自社の慰安婦報道を検証し、報道の一部は虚偽だったとして、記事を取り消す旨を発表した。日本軍や政府が女性たちを強制連行したという慰安婦報道のいわば旗振り役だった「朝日」の検証はしかし、極めて不十分で責任逃れの感を否めない。
「朝日」の主張を支えてきた柱の一つが吉田清治氏(故人)の、軍命によって済州島に出掛け「女の狩り出し」を命じたという「告白」証言だった。
この話は、しかし、1992年3月には現代史家の秦郁彦氏が現地調査で虚偽であることを報じている。にも拘わらず、「朝日」はその後、今日まで吉田証言を放置し、約22年後のいま、ようやく取り消したのである。
この間、「朝日」の慰安婦報道には私も、西岡力氏ら少なからぬ人々も批判や反論を展開してきた。そうした批判に頑なに背を向け、22年間放置したことの説明はない。
もう一つ、「朝日」があまりにも長い間、頬かぶりした問題がある。植村隆元記者の記事である。氏は91年8月11日の「朝日新聞」(大阪版)で「日中戦争や第二次大戦の際、『女子挺身隊』の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』のうち、一人がソウル市内に生存」という記事を書いた。
同記事は慰安婦として名乗り出た女性についてのスクープだったが、挺身隊が慰安婦にされたという内容が韓国世論を激しく刺激しないはずがない。
女子挺身隊は主として15歳から24歳までの女性が構成する真面目な勤労奉仕隊である。慰安婦とは何の関係もない。にも拘わらず、植村氏は両者を結び付けた。
氏の記事を具体的に想像してみよう。中学を卒業したばかりの少女から20代前半までのうら若い女性たちを外国の軍隊が戦場に連行し、売春を強制したということだ。これでは世論が怒りで沸騰するのは当然である。
時間がたつにつれ恐ろしいほどの悪影響を及ぼした事実誤認を書いただけでなく、植村氏の記事には極めて重要な、決定的ともいうべき情報が欠落していた。その重要情報の欠落は状況から判断して意図的と言われても弁明出来ないのではないか。
前述の記事で氏が報じた女性は、記事が出た3日後の8月14日にソウルで実名、金学順を明らかにして記者会見し、「生活苦のために14歳で母親にキーセンの検番に40円で売られた。3年後、17歳で検番の義父に、また売られ、日本の軍隊のある所に行った」と語った。彼女は同年12月6日に日本政府を訴えた。東京地方裁判所に出した訴状にも家が貧しく14歳でキーセンになったと書いている。
植村氏は上の提訴から約20日後の12月25日、金氏の大きなインタビュー記事を再度報じた。
「日本政府を相手に提訴した元従軍慰安婦・金学順さん 返らぬ青春 恨の半生」との見出しが躍るこの記事でも金氏が親に売られた事実は書かれていない。
親に売られた気の毒な身の上に同情しない人は居ないが、そのことと日本軍による強制連行は無関係だ。記者会見および訴状から、彼女は挺身隊とは無関係だ。にも拘わらず、植村氏はこの2つの点に全く触れていない。訂正記事も出していない。
「朝日新聞」は同件をどう説明したか。当時は女子挺身隊と慰安婦は混同されており、植村氏も誤用したと書いている。「朝日」のこんな説明を受け入れるわけにはいかない。
かつて、文藝春秋社はユダヤ人ホロコースト問題で雑誌「マルコポーロ」を廃刊にした。「朝日」の慰安婦報道の罪深さを考えれば「朝日」こそ廃刊し、日本人だけでなく韓国国民にも謝罪すべきである。その上で新たな陣容で新しい新聞を立ち上げるのがメディアの良心というものだろう。