「 蛮行のプーチン・ロシアから逃げ出す外資や富裕層 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年4月5日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1029
オランダのハーグで3月24日、先進7カ国が緊急首脳会談(G7)を開き、6月にロシアのソチで予定されていた主要八カ国首脳会議(G8)への出席取りやめを決定した。
安倍晋三首相はG7で「力を背景とした現状変更は断固として許されない。この問題はウクライナにとどまらず、日本およびアジア諸国を含む国際社会全体の問題だ」と発言したことを、記者会見で述べた。日本の主張をG7であらためて発信したのは正解である。
ロシアにおけるクリミア半島の軍事的併合の前、日露の北方領土問題に関する交渉で歩み寄りが期待されていた。安倍首相とプーチン大統領との間でしか、北方領土問題の解決はできないとの読みもあった。米国やEUに比べて、安倍首相の対ロシア非難および制裁が時期も内容も、遅めかつ弱めだったのは、そのせいだとみられていた。
だが、武力で違法に北方領土を奪われた日本が、いままた武力で違法にクリミア半島が奪われるのを見過ごせば、日本は、北方領土に関しても発言できなくなる。これからもっと激しくなっていく尖閣諸島での中国の侵略的行為にも物が言えなくなる。だからこそ、ハーグにおいて首相があらためて、日本は断固、軍事力による現状変更に反対するという原則を明確に打ち出したことは、大事なことだった。
ロシアのラブロフ外相は、G7諸国のG8ボイコットの決定に、G8がなくともG20があるなどと強気の反論を展開した。いくら強気でもロシアの先行きは暗い。軍事力を支える経済が限りなく脆弱である。
例えばロシアのGDPは200兆円、イタリアとほぼ同じ水準である。米国の1,660兆円、中国の980兆円、日本の500兆円と比べると、軍事力による領土拡張の勢いとは対照的に、ロシア経済の凋落は明らかだ。
ロシアの経済成長率は昨年は1・3%にとどまり、今年の見込みは0%とみる銀行もある。しかも同予測はクリミア紛争以前のものだ。21世紀にふさわしくないプーチン政権による蛮行のロシア経済への影響は計り知れなく大きいだろう。外国からの新規投資が見込めないだけでなく、外資はすでにロシアから引き揚げ始めた。
ロシアから逃げ始めた点において、ロシアの富豪たちの資金も同様である。プーチン氏が大統領に返り咲いた2012年以降、ロシアから海外に逃げ出す資金は年に約六兆円と推計されている。中国の富豪たちが海外に送る不正資金は毎年10兆円といわれているが、ロシア人の不正資金の海外への送金は中国人のそれよりも少ない。しかし、ロシアのGDPは中国の約五分の一である。経済全体に占める不正送金の比率、つまり富の流出は、ロシアのほうが中国よりはるかに大きい。プーチン独裁政権に抱く危機感の大きさを示しているのであり、プーチン大統領が海外に送金する富豪たちを「裏切り者」とののしる理由ともなっている。
ロシア経済の特色は、物づくりができないこと、石油や天然ガスなどの第一次資源の輸出に大きく依存していることである。つまり発展途上国タイプの経済にとどまっているということだ。もう一つ、ロシアの国家としての特徴の一つが顕著な人口減少である。総人口が1億4,300万人、労働人口は約1億人、そのうち、毎年100万人が現役を引退している。その分を補完する若い労働人口が不足しており、労働力の不足が経済成長の足を引っ張っている。
加えて、プーチン大統領の足元を揺るがす動きが、現在彼を支えるインナーサークルから生まれてくる可能性がある。国際社会の経済制裁のターゲットは、この特権層で、締め上げが効果を発揮すれば、プーチン体制は崩壊しかねない。日本は対ロシア外交でこのことを忘れてはならない。