「 中山義隆・沖縄県石垣市長が語った凄まじい選挙戦の実態 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年3月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1027
「いまだにこんな変な選挙だということを知ってほしいのです。新聞は一面トップで事実無根の記事を載せ、本土からは外人部隊が押し寄せました」
こう語るのは、3月2日に沖縄県石垣市長に再選された中山義隆氏である。インターネットテレビ「君の一歩が朝(あした)を変える!」で、氏は現地の新聞「琉球新報」や配布されたチラシなどを示しながら、1時間にわたって驚くべき選挙戦の実態を語った。
沖縄本島から410キロメートル、台湾から200キロメートルの地点にあり、尖閣諸島を所管する石垣市の動向は、中国が尖閣諸島を核心的利益と位置づけて奪いに来る姿勢を強めるいま、内外においてとりわけ注目される。沖縄本島と宮古島、宮古島と石垣島の間は、中国の軍艦や潜水艦の通路となって久しい。
だからこそ、石垣市長の国防政策に関する考え方が石垣島を含む南西諸島の守りに大きな影響を与える。
現職の中山氏に挑戦したのが前市長で革新勢力の大浜長照(ながてる)氏だった。以前、大浜氏が市長だったとき、米海軍の掃海艇の石垣港入港に当たって非常事態宣言を出し、“軍靴の響き”が市民を恐怖に陥れるとして、掃海艇乗組員の上陸を阻止しようとした。
「日本共産党や社民党の革新勢力が石垣島で共闘して臨んだのが今回の市長選でした。彼らは『元の形に戻そう』と呼びかけました。保守派の政治家としての私の政治ではなく、革新派の政治家の大浜氏の手に石垣を取り戻し、自衛隊を排除し、教科書もかつての日本国に批判的な内容のものに、再び戻そうということです」と、中山氏。
大浜陣営を「市民」の力の結集を訴える人々が支えた。社民党は選挙カーの「社民党」の文字の上に「市民党」のステッカーを貼って走り回り、山本太郎氏は石垣で反原発を訴えた。
そうした中、「琉球新報」は、市長選告示日に一面トップで「陸自、石垣に2候補地」「防衛省が来月決定」という見出しの記事を掲げた。いまにも陸上自衛隊を石垣島に配備する、翌月にも正式決定されると印象づける見出しだが、これは事実無根だった。石破茂自民党幹事長も小野寺五典防衛大臣もただちに同記事を否定、小野寺氏は「このような事実に反する報道」には「何らかの意図が感じられ」るとまで語った。防衛省は、琉球新報社および日本新聞協会に異例の申し入れを行った。
中山氏が説明した。
「翌日からこの記事を使ったあからさまなビラが大量に出回り始めました。『平和と観光の島に軍事基地いらない、前市長へ1票を』などと書いています。ここまでやるかと驚いたのは、私の名前で出された『差押予告』です」
「滞納整理強化月間」「あなたが納めるべき市税が、いまだに納付されておりません」などと書かれ、財産差し押さえの具体例として預貯金の引き出しができなくなる、給与から直接取り立てる、車のタイヤをロックして運転出来なくするなどと、中山氏を強引な市長と印象づけるおどろおどろしい事例が列挙されている。
「これは正式な書式ですが、私の印鑑はありません。警察に届け出を出しましたが、こんな悪質な紙を各家のポストに投げ入れているのです。大変な数の人間を動員したと思います」
沖縄での選挙の凄まじさを示す事例である。だが、中山氏は、いろいろな問題があっても、沖縄の未来は明るいし、明るくすると破顔一笑した。
「沖縄の11市中、革新の市は2市だけ。私と同じように40代、50代の若い首長が6人もいます。われわれは沖縄を愛しています。もっと愛される県にしたいと願っています。例えば、石垣市の出生率は2・0です。おそらく日本一でしょう!」
子どもの元気な声があふれ続けるように、福祉も教育も安全保障も前向きに語る氏に、私は納得した。