「 ずさんな調査の元慰安婦報告書 河野洋平氏らを喚問すべきだ 」
『週刊ダイヤモンド』 2013年10月26日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1007
慰安婦問題に関する河野洋平官房長官談話が出されたときから、私は河野談話の基となった韓国の元慰安婦の人々の聞き取り調査を公開すべきだと主張してきた。10月16日、その全容を「産経新聞」がスクープした。聞き取り調査のずさんさを知るにつけ、あらためて河野氏らに強い憤りを抱く。
元慰安婦16人の聞き取りに基づいて出された河野談話は、1991年12月から1年8ヵ月にわたった調査の結果として次の点を強調している。
旧日本軍が直接あるいは間接に関与した。甘言、強圧による事例が数多い。慰安所の生活は強制的で痛ましかった。これを日本人は歴史の教訓とし、二度と同じ過ちをしてはならない。
談話発表後の記者会見で、河野氏が日本軍が強制したという点を重ねて確認したのを、私は鮮明に思い出す。こうして河野談話は日本軍による強制説に根拠を与え、韓国、中国、米国での一連の歴史非難を生み出していった。
「産経新聞」の報道を見てみよう。まず驚いたのは女性たちの証言内容をまとめた報告書の分量の少なさである。16人でA4の紙、わずか13枚だという。次に驚いたのが調査のずさんさである。フルネームが判明している女性は16人中、一人もいない。「金」「李」「黄」など朝鮮半島にありふれている姓が並ぶ。中には「白粉」などという意味不明の言葉が氏名欄に記されている。生年月日の判明しない女性は7人、出生地不明の女性は13人だ。
いかなる調査もその信憑性はまずその人物を特定できるか否かにある。いったい、どこの誰が証言したのかがわからないこの調査は、最初から信頼性に欠けていたということだ。
内容を読むとでたらめさがさらに際立つ。大阪、熊本、台湾など軍の慰安所がなかった場所で何年間も強制的に働かされたと語った女性が6人に上る。
その他の証言も「義父に連れていかれた」「養父にキーセン学校に入れられた」「韓国人と軍人にトラックに乗せられた」などと日本軍とは無関係の内容が並んでいる。
現代史の専門家、秦郁彦氏は「恥ずかしいほどお粗末な」内容と断じ、慰安婦問題に詳しい西岡力・東京基督教大学教授は「(16人の元慰安婦のうち)誰一人権力による強制連行を証明できる者はいない」と分析したが、その通りであろう。
日本国による強制を証拠づける証言者だとして韓国政府が出してきた、いわば「エース」級の女性たちがこの16人だ。だが、いま、紹介したように、彼女らの証言は日本国政府や軍が強制したということの証拠には、とうていなり得ないものだ。言い換えれば、韓国側には日本国政府や軍の強制を証明できる女性はいなかったということだ。これは日本国政府も軍も女性たちを強制連行したりしてはいないということを示す有力な証拠ともなる。
にもかかわらず、河野氏も談話作成に尽力した谷野作太郎元内閣外政審議室長らも反対の結論を出して謝罪したのである。その点について両氏は「産経新聞」の取材に応じず、説明責任を回避している。石原信雄元官房副長官は、「(当時)証言内容をチェックする時間はなかった」とした上で、氏自身は調査書は見ずに「心証で」談話をまとめたと語っている。
実は私は97年に石原氏に取材し、上のコメントを報じた。氏は当時、日韓両政府間に女性たちのメンツのために日本国政府が強制性を認めれば、韓国は二度とこの問題を持ち出さないとの「あうんの合意」があったと語った。
このようないいかげんなことで、河野氏は談話を出した。16人の証言内容を非公開としたのは批判に耐え切れないと判断してのことだろう。
ここまで事情が明らかになったいま、私はあらためて、河野、谷野両氏ら関係者を国会で証人喚問すべきだと思う。