「 いまこそ憲法改正をはじめ根本的変革を目指すべきとき 」
『週刊ダイヤモンド』 2013年7月27日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 995
安倍自民党政権の参議院選挙での圧勝を前提にして、選挙後の政治課題についての議論が盛んである。その中で安倍晋三首相周辺から発信されるメッセージの中に、気になるものがある。
例えば安倍氏の直面する課題は2つあるとして、それにどう対処するかを論じた元ベテラン外交官の提言である。2つの課題とは、靖国問題や従軍慰安婦に関する河野談話の見直しなど、いわゆる歴史問題と、安全保障体制の確立、すなわち集団的自衛権の行使、防衛費の増額などによる日米同盟の強化という捉え方だ。
官邸周辺からの発信は、この2つの問題に取り組むとしても、これらが国際問題化されれば日本は勝てないという警告につながってくる。日本は戦争に負けたのであり、中国や韓国による対日批判が不条理なものであっても、日本はそれに勝てないというのである。
では、日本は何をすべきだと、こういう人々は言うのだろうか。小泉純一郎氏が首相だったとき、日本はイラク派兵などで小泉・ブッシュ関係を固めた。それ故に小泉首相が靖国神社に参拝しても日米関係は全く影響されなかった。したがって安倍首相も集団的自衛権に踏み込み、防衛費を増額し、まずは日米同盟を強化せよ、日米同盟さえ強化すればすべてうまくいくという意見なのである。
歴史認識問題や憲法改正問題に手をつけることは国際問題に発展する危険性が高いために、それらは後回しにせよという意見でもある。
経験豊かな識者が大真面目にこの種の議論を展開しているのを見て、私は考え込んでしまう。私は参院選投票日を目前にしてこの原稿を書いている。自民党がどれほど勝つのか否か、わからない。しかし、自民党がどのような勝ち方をするのかはわからないながらも、心の中に確かなこととして位置づけられているのは、この局面で憲法改正を含む日本国の基盤を根本的に改正できなければ、日本は確実に滅亡に向かうということだ。
選挙後の安倍政権が日米同盟強化のための施策を取るというのは当然のことだ。日本はすでに、小手先の改革では立ち行かない局面に来ている。問われているのは、日本がどのような立場で日米同盟を強化するかである。米国の庇護という大きな枠組みの中にとどまり基本的に守ってもらい続けるのか、それとも、米国と最大限の協調体制を維持しながら、自主独立の主権国家として、対等の立場に立つべく努力するのかということだ。
相対的に優位性が後退しているとはいえ、米国は何といっても超大国である。その米国との「対等」を目指すというのは、とりわけ現在の日本の状況を見れば、笑止千万と言われるのが関の山である。しかし、米国と同様、自由や民主主義、法治の価値観を基本に、アジア・太平洋地域の国々との協調体制を強化し、同地域の平和と安全と秩序に貢献する。その先頭に立つ覚悟を持つことによって、わが国は十分、米国と対等になれる。
そのために必要なのが、日本が自主独立の日本らしい日本になることなのである。それは憲法改正なしには成し遂げられないことだ。日本が日米同盟を強化して米国に日本の柱であり続けてほしいと願っても、いま、米国自身が大きく内向きに転換しつつある。日本の望むようには日本を守ってくれないかもしれない時代に入りつつある。他方、中国はそのような米国の内向き志向を米国の弱点と見て、米国とは反対に、軍備の拡張を加速し、勢力の拡大を試みるだろう。
そうした中で日本にはいま、戦後の他国依存の異常な体制から脱却することを悲願とする首相が存在する。自民党が衆参両院で大きな勢力を有すると思われるいまこそ、憲法改正をはじめとする根本的変革を目指すべきなのだ。