「 北朝鮮に謀略戦で敗れたことが韓国のまともな国造りを妨げている 」
『週刊ダイヤモンド』 2013年3月30日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 979
韓国がおかしい。
例えば韓国人窃盗団が対馬のお寺から盗んだ長崎県有形文化財の仏像を、韓国のお寺が、元々これは14世紀に自分の寺で作ったものだと主張し、“自分の寺に戻してほしい”と要求する。戻してほしいのは日本のほうだ。
3月25日、初の女性大統領となった朴槿恵氏は、北朝鮮が核の小型化に成功し実戦配備が可能となったこの非常時に、国民の安全ではなく国民の幸福を守るという就任演説を行った。
大統領としてスーパーマーケットを視察し、豚肉の価格が高過ぎるとして値下げを指示するのだが、「国民の幸福」は国家の安泰なしには得られない。だが、国家安泰の基盤である安全保障について、大統領は語らない。
国家の安泰を担保する国際社会の枠組みについての理解もおかしい。安倍晋三首相が特使を送ったのに対し朴大統領は最初の特使を中国に送った。演説で「米、中、日」と語り、中国を日本より重視した。韓国の危機の元凶は北朝鮮と、北朝鮮を支持する中国である。韓国は日米両国に支えられて初めて、事実上中国とのせめぎ合いになる北朝鮮有事を乗り越えることができる。日本は米国と共に韓国にとってなくてはならない支援国だ。にも拘わらず、中国重視の感覚のズレは一体何なのか。
「統一日報」論説委員の洪熒(ホン・ヒョン)氏が興味深い答えを語った。
「韓国は光州事件以来、北朝鮮との戦いに敗れ続けており、結果、おかしなことが続発しているのです」
1980年、全斗煥大統領が光州で起きた反政府運動を徹底的に軍事制圧したとされるのが光州事件だ。洪氏はあの事件の本当の性格を認知するために池萬元氏の著書をめぐる司法判断を知ってほしいと言う。池氏は米軍海軍大学で博士号を取得した元大佐である。
池氏は著書で光州事件は「5・18(光州事件)は金大中などが起こした内乱事件」であり、「北韓の特殊軍が派遣されて組織的な作戦指揮を執った。不純分子が市民を銃で撃った」「左翼がこれを軍人になすり付ける謀略戦を繰り返し、事件を民主化運動と位置付けた」「心理的内戦はまだ終わっていない」と書いたのだ。
光州事件の負傷者の会など18団体が池氏を名誉毀損で訴えたのが2008年9月、最高裁判所の判決が出たのが昨年12月だった。判決は池氏の完全勝利であり、「光州事件は北朝鮮特殊部隊の工作だったという主張」が正しいと、認められたのだ。だが、このニュースは韓国では一切報じられなかったと洪氏は指摘する。韓国全体が北朝鮮の側に立って考え、北朝鮮に不利な情報は伝えない国になっているのだ。
池氏は事件で殺害された学生や住民の70%が全政権の政府軍ではなく、北朝鮮の特殊部隊に殺害されていたことを詳細に描いた。当時、韓国軍が使用した武器はM16だったが、多くの人が異なる武器の銃弾で殺害されていた。実は韓国の予備軍の武器庫が襲われて、およそすべての武器が奪われていた。奪ったのが北朝鮮の特殊部隊だったというのだ。
「いまも、韓国人も日本人も、このことに向き合おうとしません。当時はなおさらです。全政権は軍事ファッショ政権と見做され国際社会の非難を浴びました。あの時点で韓国は北朝鮮の謀略戦に敗北したのです。敗北は続いていて、朴大統領も北朝鮮を脅威と捉え準備するというまともな国家指導者としての考え方が出来ないのです」
仏像をめぐる韓国のお寺の反応は韓国人としても「狂気の沙汰」だ、あの一例をもってすべての韓国人が同じだと考えないでほしいとも洪氏は語った。
洪氏の主張や説明のすべてに納得するわけではないが、光州事件についての日本の理解が著しく不十分なのは明らかだ。そうした無理解が韓国の保守派を追い詰め、まともな国造りを妨げていることにも気付かされた。