「 尖閣諸島を中国に奪われたとき日本はこれを奪還できるか 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年9月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 950
南シナ海に中国が初めて軍事侵攻をかけたのが1974年1月だった。南ベトナム(当時)が領有していた西沙諸島の西半分を奪うため、海と空から攻撃し、南ベトナム軍哨戒艦2隻を撃沈、多数の兵を殺傷した。泥沼化していたベトナム戦争で南ベトナムを支援していた米国にはもはや対中反撃能力はないと見越した上での攻撃だった。
ちなみに同諸島の東半分は56年以来中国が占拠して今日に至る。
88年、中国は今度は南シナ海の南沙諸島でベトナムを攻撃、艦船数隻を撃沈して赤瓜礁を奪った。ついでにこのとき、先に奪った西沙諸島に2600メートルの滑走路を完成させた。
95年にはフィリピンから南沙諸島の美済礁を奪った。漁民が嵐を避けるための施設と称して、中国は軍事要塞を建造。今そこには対空砲、対艦砲、ヘリポート、大型艦船停泊用の突堤などが備えられている。
以降、97年、99年、2009年、11年そして今年まで、南シナ海での中国の軍事侵攻は続いている。同じことは必ず東シナ海でも起きる。その場合、日本は中国の軍事侵攻を退けられるのか。その点について詳述したのが川村純彦氏の『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力』(小学館)である。
氏は海上自衛隊の対潜水艦哨戒機のパイロットだった。統幕学校副校長を務め退官、現在はシンクタンク「国家基本問題研究所」の客員研究員である。
氏は著書で東シナ海の衝突を仮定して戦いの主力となる日中の海軍力を詳細に比較、分析する。いくつかわかりやすい事例を拾ってみる。
まず、海の兵力である。日本の海上自衛隊は4万5518人、中国人民解放軍海軍は26万人、うち航空隊が2万6000人、海兵隊が1万人である。
中国は海軍だけで、わが国の自衛隊陸海空合わせて23万人を優に上回る。中国海軍は中国人民解放軍、すなわち陸軍の下位に置かれており、海軍の背後には世界最大規模の陸の兵力150万人が控えている。
艦船はどうか。日本は排水量の総トン数で44万8000トン、小さな船も入れて143隻がすべてである。他方、中国は134万トン、950隻を有する。
潜水艦はどうか。日本が保有するのは通常型潜水艦一六隻にとどまる。中国は通常型潜水艦が62隻、加えて原子力ミサイル搭載潜水艦3隻、攻撃型原子力潜水艦6隻の計71隻を有す。
その他の装備の比較を見れば見るほど、日中の軍事力の差のあまりの大きさと、ここまで差が開くまで放置し、現在もなお防衛費も自衛隊員も削減する政治家たちは、民主党も自民党も含めて、一体、この危機をどう捉えているのかと憤らざるを得ない。これで尖閣諸島と東シナ海を守り切れるのか。
この問いに答えてくれるのが、本書の最終章である。元海自のパイロットとして現場を知悉する川村氏が想定したのは、尖閣諸島を奪われ、日本が奪還するケースだ。私は一気に読んでしまったが、興味のある方は氏の著書を読んでほしい。
結論から言えば、日本は中国に勝てるのだ。日中の軍事力、装備の差を考えれば、日本の勝利は自衛隊員の練度と士気に大いに依存していることがわかる。
だが、自衛隊員の士気に頼ってばかりいられないのも明らかである。これ以上、日中の軍事力の差を広げては取り返しがつかない。中国が今も右肩上がりで軍事予算を増やしていることを忘れるわけにはいかない。現在編成中の来年度予算で防衛費、および海上保安庁の予算を目に見える規模で増額し、人員も船も潜水艦も増やすことが野田佳彦首相、安住淳財務相、森本敏防衛相らの責任である。
川村氏は尖閣諸島がいったん中国に奪われるケースを想定したが、その手前で防ぐために、島に気象観測所や沖縄県警の拠点を急いで置くことだ。