「 中田宏前横浜市長はいかに『殺された』か 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年11月26日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 913
折に触れて取材をしてきた中田宏前横浜市長が『政治家の殺し方』(幻冬舎)を上梓した。いまさらではあるが多くのことが理解出来た。
中田氏とは、氏が市長選に出る前の国会議員時代からの知り合いである。日本の改革と国家基盤の強化という大テーマに基づいて、個々の問題の具体的解決策を勉強する20人前後の議員の勉強会に、無所属議員だった氏はほとんどいつも出席していた。
市長就任後の活躍は目覚ましかった。行政改革で実績を積む一方、国際、外交問題にも深い関心を払い続けた。捕鯨問題の理解の深さは他の議員をはるかに凌駕しており、筋が通っており、私はたびたび、氏の考えを記事にした。
だが、氏の「スキャンダル」がある時期から報じられ始めた。「まさか」と疑う内容ばかりだったが、スキャンダルはこれでもかこれでもかというほど、連続して報道された。
報道する側に立てば、どれほど取材しても間違うことはあり得る。その場合は訂正する。だが、最初から間違いとわかっていて報道することはあり得ない。虚偽の報道で記者は信頼を失い、記者生命を失うからだ。
だからこそ、「週刊現代」が都合7週間にわたって繰り返し報じたとき、根拠がなければ、これほど続けることはあり得ない、週刊現代側にはなにか確証があるはずだと、考えざるを得なかった。
それにしても、私の知っている氏の姿と連続報道の中の氏の言行はあまりにも懸け離れている。私は直接、氏にただした。氏は心配をかけてすまないと詫びたうえで「天に誓って」、報道は事実無根である、司法の場で争っていると答えた。
私はその言葉を信頼し、氏が市長を辞めて山田宏前杉並区長らと日本創新党を結成し、2009年の衆院選に出たとき、出来る限り応援をした。
そして、今回の出版である。氏が置かれた状況がいかに理不尽で、その戦いがいかに激しいものだったかを、いまさらながら知ることになった。中田氏の改革に、ラクをして不条理なほどの手当をもらい続けていた足元の市職員からどれほどの反発が続いたか。職員は市長に「バカ市長、調子に乗るな」「死ね」などというメールを、実名で送り付けてきたという。
地方公務員法で権利を守られている彼らはクビにならないのだ。「命を狙っている」と脅迫電話をかけ続けて逮捕された男も市職員だったという。
腐った精神は職員だけでなく、市議会議員にも浸透しており、既得権益にまみれた議員が少なからず存在した。
むろん、職員にも議員にもまともな人は多い。だが、「利権に群がるハイエナたち」も多い。中田氏は「ハイエナ」を建設業界、公務員、風俗業界の三グループに大別して詳細を書いた。その実態は本当に信じがたくすさまじい。ぜひ、本書を手に取って知ってほしい。スキャンダル報道も、利権を失いたくない「ハイエナ」の中心人物が背後で糸を引いたと、中田氏は考えている。目的は氏の評判を落とし、氏を追い出し、改革を頓挫させて横浜市を再び利権の巣に引き戻すことだ。
中田氏は一連の名誉毀損訴訟のすべてで勝訴した。10年10月から11月にかけて出された判決は、報道は「裏づけ取材はほとんど行われておらず、杜撰」として、中田氏の主張を全面的に認めた内容だ。だが、スキャンダルは07年11月から翌年にかけて報じられたのだ。判決までの約3年間、氏の名誉と信頼は傷つけられたままだった。スキャンダルを流す側にとっては中田氏の追い落としが目的であるから、彼らは目的を達したことになる。
このようにして政治家は「殺されていく」と氏は訴え、真実を伝えないマスコミが日本を滅ぼすと厳しく批判する。もっともだ。マスコミの一員として、氏の体験を心に深く刻み続けたい。