「 東京電力と政府が嘘をつく体質を変えなければ事故は再発する 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年10月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 905
去る8月11日、佐藤雄平福島県知事が県の復興ビジョンを決定し、脱原発を基本理念とする旨、発表した。日本の原発54基中、10基を擁する原発立地県が脱原発を正式に宣言したことは、日本の電力供給に大きな負の影響を与える深刻な事態である。
確かにすさまじい原発事故は発生し、処理の仕方はこのうえなくまずかった。被災者の苦難と悲劇は形容しようもない。しかし、原発に背を向けることで日本の未来の可能性は開けるのか。大いに疑問だが、福島県前知事の佐藤栄佐久氏は県の脱原発政策を容認する。政府も東京電力もまったく事故から学んでいないために、このまま原発を維持、推進しても、また、同じことが起きるという理由である。前知事がプルサーマルに関して体験を語った。
各地の原発で使用済み核燃料が生まれるが、日本の現状ではそれを保管する場所がない。また青森の六ヶ所村の再処理工場は本格稼働に至っていない。たとえ稼働しても、そこで生まれるプルトニウムもたまる一方で、プルトニウムを消化する方法を考えなければならない。プルサーマルの稼働はそんな事情から急がれてきた。
通常のウラン燃料に使用済み核燃料を再処理して発生したプルトニウムを混ぜるとMOX燃料が出来る。このMOX燃料を通常の原発で燃やすのがプルサーマルである。佐藤前知事は、プルサーマルはたまり続けるプルトニウムを処理する最後の逃げ場だと語る。
東電と当時の橋本龍太郎首相の要請を受け、前知事と福島県が1年間の検討を経て、全国で初めてプルサーマル計画実施を事前に受け入れたのは1998年だった。だが、情報隠し、事故隠しで、プルサーマルによる発電は幾度も延期された。
前知事は2006年に辞職、その後の経緯は『知事抹殺──つくられた福島県汚職事件』(平凡社)に詳しい。後を継いだのが佐藤雄平現知事だ。
前知事が語る。
「プルサーマルは次から次へと問題が起きて運転が延期され続け、福島県も稼働を許しませんでした。しかし、現知事になって4年目の昨年8月に、福島県はプルサーマル発電を許可する決定をしたのです。私は福島県が使用済み核燃料の捨て場(恒久的貯蔵場所)にならないために青森県の核燃料再処理工場が稼働し、青森県が使用済み核燃料を確かに引き受けると決まってからのほうがよいと思いました。それまでの体験から、東電と政府の言葉を信頼出来ないと知っていたからです」
前知事の危惧は的中した。福島県がプルサーマルを了承した2日後の9月1日、六ヶ所村の核燃料再処理工場の完成時期が、予定していた10月末から大幅に延期されると発表されたのだ。
福島県の受け入れを待っていたかのように、福島県が了承した直後に、青森県での再処理は延期になったことになる。福島県が受け入れた前提が崩れたといえる。だが、このようなこと、ありていにいえば電力会社の計画を推進するための嘘は、東電と政府、さらに関連組織ではごく普通だというのだ。
前知事は怒りを込めて語る。
「再処理工場の完成時期は、6年間で18回も延期されています。信じがたいことです」
前知事自身、東電や政府はいつでも騙すとの思いをぬぐい切れないために、「敵の本丸は国だ」と心に刻んで、騙されないように原発について学んだという。前知事の辞職後も、騙しの構造は変わっていないと断言する。
この体質が変わらない限り、日本の原発が国民に信頼されることはないのである。「想定外の事故」は安全のために検討すべき情報を検討しなかった結果であり、「起こるべくして起こった事故」と前知事は語る。原発を受け入れプルサーマルを全国で初めて受け入れた、元来が保守派知事の警告に、今誠実に耳を傾けたい。