原発稼働に反対の首相 目指すは自身の生き残りのみ
『週刊ダイヤモンド』 2011年7月16日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 895
佐賀県玄海町の岸本英雄町長は7月4日、眞部利應・九州電力社長に定期検査で停止中の原発2号機と3号機の再稼働に同意する旨、伝えた。再稼働に至れば、菅直人首相が中部電力浜岡原発を停止させたあと、初めての再稼働例となる。
町長は再稼働の決定前に、3つのことを考えたという。
「まず玄海原発の安全性です。過去2,000年の歴史の中で、ここでは大地震も津波も起きていません。安心出来るのがこの地域の自然条件だと確認できました」
第二は九電との信頼関係だ。町長は過去30年間、九電は事故を起こさず、問題発生時の情報提供も十分だった、町との関係は非常によいと語る。
「第三は東日本大震災で生じた電力供給不安を放置出来ないという点です。いま、西日本までしぼむのは、日本全体にとって逆に不安です。電力供給で日本経済を支えたいと考えました」
一方、古川康佐賀県知事は玄海原発の安全性については6月29日、佐賀県を訪れた海江田万里経済産業相の説明で「理解出来た」という。地元の意向も岸本町長および町議会の決断によって確認できた。県議会も7月1日、原子力安全対策等特別委員会を開催し、県議三八人中、七割を超える二九人(自民党)の賛成を得て、稼働再開の条件が満たされたと語った。残る条件はエネルギー政策と原子力発電の位置づけについて、首相の考えを尋ねることだと、知事は強調する。
玄海原発が再稼働出来るか否かは日本の未来展望に非常に大きな影響を及ぼす。自然エネルギーの比重を増やすにしても、当面、おそらく一~二世代のあいだ、日本が原発を必要とするのは明らかだ。電力不足への懸念から、すでに日本の産業基盤は損なわれ始めている。可及的速やかに佐賀県の了承を受けて原発再稼働に道を開くべく、政府自身が努力しなければならない。
「本来なら、首相に県までおいでいただき、原発再稼働についてのメッセージをいただきたい。来県が無理ならいかなるかたちでか、国家のエネルギー政策の根幹をなすこの問題について政府の明確なメッセージがほしい」
このように知事がこだわるのは、玄海原発の安全性確認や再稼働は可能との情報に対して、これまで首相がなんの反応も示していないことがある。原発は、地方自治体ではなく、本来国家が責任を持つべき事柄である。その点を明確にせよと、知事は言っているのであり、その主張はきわめて正しい。
「浜岡原発を政治判断で止めさせた首相は、玄海原発の再稼働についても政治判断を示す責任があります。にもかかわらず、意思表示がありません。再稼働を切望する海江田大臣と、首相の考えは違うのではないか。閣内不一致ではないかと疑っています」
内閣の意思が定まらず、政策が決められず、内閣が機能しないのが閣内不一致だ。大臣の更迭や内閣総辞職につながる重大問題だが、民主党政権では驚くことに閣内不一致は珍しくない。
首相の明確な意思表示がなければどうするのかと問うと、知事は即座に、「再稼働はさせません」と答えた。
「脱原発を争点に総選挙をするという見立ても聞いています。地方自治体が日本全体の電力需給を心配し、必死に危機を乗り切ろうと努力しているときに、肝心の最高指導者の考えがはっきりしない。首相が脱原発を訴えるのなら、エネルギー政策の全体像、工業の衰退と国民生活の展望などについて厳しく問わなければなりません」
5日、首相は海江田氏の説得に対して、古川知事との面談を拒否した。翌日には突然、新たな安全性検査が必要と言い始めた。脱原発で選挙を目論んでいるのだ。日本経済の先行きや国民生活の未来よりも徹頭徹尾、自身の生き残りしか考えないのが首相の正体だ。